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仮初めの宮中にて 第八話

大きな窓の近くに置かれたテーブルに座り、朝日を受けながら二人で朝食を摂っていた。

ウリヤちゃんは食事中終始無言だった。昨夜少し話をした程度でほとんど初対面であり私も何を話したら良いのか分からずに黙々と食べていた。


マルタンの朝は静かだ。

ヒミンビョルグの山小屋のようなよく乾いて冷たい静けさとは違い、近くに街の気配があり、皿や食器が擦れたり包丁や鍋の動いたりの食事の音や、ベッドを片付けるような物を動かす音が、一つ一つは小さくともたくさんのそれは集まって僅かな音となり、これから動き出す前の胎動がある。


ウリヤちゃんは食欲はあるようで遠慮も見せずに綺麗に食べている。この子の様子を見たのは昨日の夜と今日の朝だけだが、豊かであっても自由では無い生活を強いられて強いストレスを感じ身体の調子がおかしくなっているのではないかと思っていた。

静々と上品に、それでいてしっかりと食べる姿に私は安心した。昨夜は気の利かない大人たちに囲まれて食が細かった。今は私――と言っても初対面の年上の女――だけだから、少しばかり気も楽なのだろう。余計なことを尋ねない方が彼女も食事がしやすいはずだ。


バゲットの籠を見ると、二きれ残っていた。食欲がある様子なので「ウリヤちゃん」と呼びかけて彼女の方へ押すと、上目遣いでこちらを見てきた。私は首をかしげて勧めると、二、三度私の目とバゲットを交互に見て手を伸ばした。

籠を近づけて上げようと彼女の手の方に押したとき、僅かに指先が触れた。そのとき、私の指先とウリヤちゃんの手の甲に閃光が走った。痛みは無かったが、お互いに驚いて手を引っ込めてしまった。それで少し気まずくもなってしまった。


それから食事も終わり、コーヒーを飲んでいた。

当然だが、メイドさんもいないので自分で淹れた。自分でやれと言わんばかりに挽いていない豆とポットだけが置かれていた。人件費もかさむのでメイドさんもあまり動かせないのだろう。


コーヒーを口に付けて改めてぐるりと部屋の中を見回してみると、王宮と言うには些か殺風景な印象もある。

この建物は元はと言えばマルタン市庁舎だ。そこを改築、と言っても壁を壊して部屋を広くしただけのようなもの。窓も大きいが四角く、無駄な装飾も無く。床もリノリウムであり、元々事務机が置かれていた跡や日焼け跡が残っている。その上に豪華そうなカーペットを敷いている。天井の照明は如何にも王宮のような巨大なシャンデリアが、とはなっておらず、埋め込み式の魔力照明が等間隔で並んでいる。エネルギー供給に問題があるのだろう。点灯しているものと装置が抜かれて点灯していないものが交互に並んでいる。


だが、幸いにも事務室の名残なのか、広い空間の片隅にはトイレやシャワールームといった水回りも給湯室を少し広めにしたような簡単なキッチンもある。


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