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仮初めの宮中にて 第七話

挨拶もなくつかつかと部屋の中へと入り込み、ライティングビューローの前まで来ると立ち塞がるように並び腰に手を当てた。


「アニエス陛下」と言うと目をつぶり人差し指を顎に当てて顔を上に向けた。


「陛下とお呼びするのは些か早いですかね。ですが、さん付けもどこか……。もう陛下でよろしいでしょうね。さて、本日のご予定は聞いていますね」


「習いごとがあると伺っていますが」


「ああ、それはもう必要なくなりましたわ」


「あなたは皇帝になるのですよ。皇帝になってしまえば、様々なことに束縛されます。あなた自身の身を案じる為、計略に利用される為と色々な理由であなたは壁の中にとどまることになるのです。つまり、これまでの一般庶民のような自由はもう味わえません。そこで私たち顧問団一同はあなたに生涯最後の自由を与えることに致しました。ウリヤちゃんも、亡命政府、ひいては帝政ルーアにおいてあなたの側にいることが多くなります。まだ幼いというのに、可哀想に。自由な青春を遅れず、ステキな男の子と淡い初恋も出来ず、皇帝と共に壁の中で暮らしていく。それを可哀想だと私たちも考えました。その結果、せめてあなたと共に優雅に過ごしていただくことになりました」


そして、「さぁ入りなさい。ウリヤちゃん」と呼ぶと、ドアの裏から背中を無理矢理押されるように部屋の中へと彼女が入ってきた。

歯を食いしばり、見るからに嫌そうな顔をしている。先ほどまで泣いていたのだろうか。目の下が赤く腫れている。


「さっきまで部屋で泣いていたのですよ。あなたに会うというのにみっともない」


そう言うと頭をぐいぐいと掌で押した。痛みはなさそうだが、嫌そうに白い歯をむき出しにした。


「昼食時にまた伺いますわ。ではごゆっくり」と言うとドアから出て行った。そして、外から鍵を閉めたのだ。


金属の錠前が回る音が三回ほどすると、部屋は静まりかえった。


私とウリヤちゃんが二人、部屋に残された。閉じ込められた。

ウリヤちゃんはライムグリーンのワンピースの裾を握りしめている。長い時間握り続けていたのだろう。深い皺と手から出た汗でくしゃくしゃになっている。うつむき加減で口を歪めて、今にも泣き出してしまいそうだ。


ウリヤちゃん、と呼びかけてもまだ下を向いて黙り込んだままだった。

ユニオンの独立記念式典の日に突然誘拐され、わけも分からないまま亡命政府の中心人物に祭り上げられて、どうしたらいいのか、分からなくなってしまっているのだ。

彼女の前に屈み、目線を合わせた。顧問団たちから解き放たれて安心したのか、再び静かに泣いていたようだ。目尻から頬に向けて一筋の涙の痕が出来ている。


「お腹空いた?」と尋ねるとその筋を追いかけるように涙の粒が二つ三つと流れた。


「メイドさんが朝ご飯をね、たくさん持ってきてくれたの。あの量じゃ私一人じゃ食べきれないわ。一緒に食べましょう」


ウリヤちゃんは首を前に傾けた後、一度止まり、再び大きく頷いた。


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