仮初めの宮中にて 第五話
ギヴァルシュ政治顧問は目をつぶり歯を食いしばると「それは失礼致しました」と引き下がった。態度悪く舌打ちでもすると思ったが、意外にも素直だったのだ。
彼女が戻っていく様子を他の顧問たちは何も言わない。私やウリヤを生意気な者を見るような視線はそこには無かった。
皇帝である私には逆らえないのだろうか。
視界の隅に見えていたクロエはそれまでは我関せずと無表情だったが、心なしかにやりと口角を上げた様な気がした。
うずくまり涙目になっているウリヤちゃんの肩に手を置き、「もう大丈夫よ。あなたの味方だなんてありきたりなことしか言えないけどね。よろしくね」と顔に垂れてきてしまった前髪を避けながら微笑みかけた。
頷いたり、返事をしたりといった反応は無くすぐに前を向き直ったが、それからウリヤちゃんは大人しくなった。
程なくして食事が運ばれてきたので、会食が始まった。
前菜が運ばれて食べ始めると顧問団たちはそれぞれに話を始めた。まず話を始めたのはギヴァルシュ政治顧問だった。
「ウリヤちゃん、なんだかんだと言っていつも通りキチンと食べていますね。安心しましたわ。毎回毎回喚くものですから、『ご飯なんかいらない』というルフィアニア語を覚えてしまいましたわ」
「正式な皇帝が現れて自分が執政官に就いたことに自覚できて、苛ついているのでしょう」
「これからもますます自覚を持っていただかないと困ります、ウリヤ執政官殿」
会話は常にギヴァルシュ政治顧問が話し始めて紡がれていった。
しかし、食事中であるのに明るい話題は何もなく、大人たちは相変わらず気配りの無い事ばかり言っていた。
ウリヤちゃんがまた癇癪を起こしてしまうかと思ったが、先ほどのことですっかり怯えてしまったのだろう。
誰かが何かを言う度に、小さな肩をびくびくとふるわせていた。
ギヴァルシュ政治顧問やクロエ、ヴァジスラフ氏は冷たくものを彼女に言い、その他の者たちは自分は子守などしない、まるで他人の家の子供用に無関心であり、無言のまま食事を続けていた。
私は何も言わず、その会話すら無視するように食事を続けた。




