仮初めの宮中にて 第二話
亡命政府の幹部が勢揃いしている大部屋に入り、喚いていたウリヤちゃんを遠目に見ていると、
「うるさい子どもが執政官とはな。皇帝も皇帝だ。人間の田舎娘など」
と低い声が聞こえた。
そちらの方を見ると身体の大きいエルフの男が腕を組んでウリヤちゃんと私を見てきた。この場にいる誰よりもエルフらしい耳をしている。
「いい加減にしたまえ。君は我々チェルベニメクの正式な団員ではないのだ。大きい口を叩くな。ここにいられるだけで感謝するべきなのだ。アニエス女史は皇帝の正統なる血筋であるのだぞ。失礼だ」
大柄の別の男がそのエルフ耳の男を睨みつけてそう言った。こちらの男は耳がエルフ特有の尖ったものではない。特徴も面影も一切ないので人間なのだろう。
「人間の分際でよく言えたものだな、ルクヴルール」
だが、負けじとエルフ耳の男もにらみ返し、どすを利かせるように低い声でそう言い返した。
「二人とも見苦しいですよ。未来の陛下の前で喧嘩など。本日はこうして食卓を囲むのですから、楽しくしていただかないと」
狐目で化粧が濃く、スーツを着た女がにらみ合う大男たちに割り込んで微笑んだ。
化粧のせいでつり上がっているわけではなく、もとより目尻がだいぶ高いようだ。
髪は上げており、耳を出している。こちらもエルフ特有の尖り具合は全くない。生粋の人間のようだ。
「よくいらしてくださいました。アニエスさん。未来の陛下とはいえ、お見苦しいところを見せてしまいました。さて自己紹介しなければいけませんね」
「そこの、大きなエルフの男性」と言って低い声の男を掌で指した。
「ヴァジスラフ・タンコスチ氏です。帝政思想の信奉者です。ご存じかと思われますが、旧体制の残党を調査するためにユニオンに派遣された共和国の技術者でした」
男は腕を組んだまま、何も言わなかった。
「残党の調査、つまり帝政思想の調査だというのに、その調査団に帝政思想が混じっているなど、共和国もユニオンも甘いですね。ほほほ」
掌を口に当てて声を上げて笑い出した。ヴァジスラフは顔を女の方へ向けると、顎を引き睨みつけるようになった。
だが、女性は構うことなく「隣にいる髭を生やした大柄の男性」と掌でヴァジスラフの隣の男を指した。
指された男は頷くと立ち上がった。立ち上がると背丈は二ヤードはありそうで、背を伸ばし手を伸ばせば天井のシャンデリアにも手が届いてしまいそうだ。
「我が輩は亡命政府軍事顧問を仰せつかっているルクヴルールだ。お見知りおきを」
胸に手を当て頭を下げながらそう言った。
武人らしく大きな臼を引くような野太い声だが、意外にも紳士的な口調だった。




