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仮初めの宮中にて 第一話

「(やだ! やだやだ! なんでこんなものばっかり! 人間の食べ物なんか食べたくない! 美味しくない美味しくない! 美味しくない!)」


 長いテーブルの端の席で金髪で緑の目をした十歳くらいの女の子が甲高い声で喚いている。

 ルフィアニア語ではなく、流暢なエノクミア語だ。私は少しばかりあちらにいたので、ある程度ではあるが聞き取ることが出来る。


「ウリヤちゃん、静粛にしていただけますか。皇帝陛下がいらっしゃったのですよ」


 ウリヤ、ということはこの子がウリヤ・メレデントということだ。

 帝政ルーアを共和国に変え、さらにその政省長官に就いていながら、帝政思想(ルアニサム)を影で率いていた亡きアラード・メレデントの孫娘だ。


「(こんなところにいたくない! 大人の話なんか知らない! そんな人、皇帝なんかじゃない! 皇帝なんか知らない!)」


「あらあら、ウリヤ“執政官”殿は今日もご機嫌斜めですか。エノクミア語で喚かれても何も分からないというのに」とクロエはテーブルの脇を歩きながらため息を溢した。


 こんな小さな、まだ十を過ぎたそこらの女の子が亡命政府の執政官なのか。

 帝政ルーアがこの子の祖父であるアラード・メレデントによって共和制になったのはこの子が生まれて間もないか、それとも生まれていないかの頃だ。

 帝政も知らず、自由で豊かな共和制での生活しか知らないようなこんな幼い子どもに帝政の執政官を任せるなど、可哀想にもほどがある。



 イズミさんをヒミンビョルグの山小屋に置き去りにした次の日の夕方に私はマルタンへと着いた。

 ほとんどルフィアニア大陸を縦断する移動となったが思った以上に素早く着いた。

 途中、まるで移動を攪乱するかのように数回の馬車を使っての移動であり、移動魔法を使うことは一度も無かった。

 そもそも私はマルタンへ来たことがない。だが、こうして自分の足で来させられるということは、ここまでの移動で通過した地点は全て私の移動魔法で繋げることが出来るということになる。

 通過地点はおおよそではサントプラントンを含めた主要都市を通過していた。クロエの何かしらの思惑があるのだろう。


 そして辿り着いたマルタンは、イズミさんがかつて言っていたように建物はどれも芸術的だった。

 その中でも仮王宮とされている市庁舎は特に壮麗な作りになっていた。


 数十分前、道中ずっと一緒だったクロエと共に、帝政ルーア亡命政府の臨時政府機関として占拠されているマルタン市庁舎へと入った。


 強い西日が差し込んでいて、初夏を迎えたマルタンはヒミンビョルグで着ていた服では汗ばむどころではなく暑すぎるくらいだった。

 市庁舎の階段を上るとき、横目に見えていたステンドグラス越しに夕日が見えた。

 芸術的な街並みに混じる建築途中で止まった骨組みたちの間に陽は沈もうとしている。陽射しは回折し、細い骨組み、遠くの骨組みを飲み込んでいる。


 西日がステンドグラスにはめ込まれた赤いガラスを通り抜け、進む階段を真っ赤に照らしていた。


「到着が本日の夕刻になると顧問団たちに伝えたところ、会食の場を設けました。同じ卓を囲んで食事をしながら自己紹介となるでしょう」


 先を歩いていたクロエが首だけこちらに向けて作り笑いを浮かべていた。私はそれに特に何も答えず、先を歩くクロエの影を追いかけた。

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