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ツヴァイターラングロジェの銃声 第十八話

「私が――」と言いながら身体を起こすと、俺の前に立ち塞がり組んでいた腕をほどいて仁王立ちになった。


「黙って行かせたのはわざとに決まってんだろ」


 マリークに頼んで、俺が部屋にいるふりをして貰っていた。部屋への定時巡回の一時間はとうに過ぎていたが、ざわついた様子は無かった。

 つまり、ユリナは始めから俺をここへと導くつもりだったのだ。確かに話が順調すぎた。


「マリークは問題ないか? アイツを巻き込んだことは申し訳なかった」


 ユリナは何も言わずに、肩を上げるだけで返事をした。彼は彼の意志に従って動いたのだろうが、それもユリナにとっては作戦のうちなのだろう。問題は無いはずだ。


「皇帝を救い出す、どうせそんな話だろう」


 ユリナは俺を見てそう言った。


「お前には関係ない」


 そう。関係ない。

 これからすることは俺が市中警備隊の制服を着て、全て一人ですることだ。


「そうか」とユリナは分かっているかのように頷いた。


「確かに皇帝にすがるジジィは邪魔だった。だが、思想どうこうではなく、長官を手にかけたことを黙っとくわけにはいかねぇ。拘束する」


 俺は共和国軍の軍服を着た兵士に取り囲まれた。市中警備隊ではなく、ルーア共和国兵士だ。

 だが、兵士たちに撃つ気はないように見える。構えも甘く、ただ向けているだけのように感じるのだ。

 ユリナの作戦はまだ続いているのだろう。


 だが、市中警備隊員の中にいたバッチが多い男が後方の隊員をかき分けて前に出てくると、

「その男は市中警備隊員だ! 処遇はこちらに任せ貰おう! 我々には逮捕権がある。軍より強い拘束力を持つので引き渡して貰おう」

 と声を上げた。


 低くすりつぶすような大声を荒げた男は隊長格なのだろう。身体の大きさからしてウェストリアンエルフだ。

 メレデントを彷彿とさせる体躯と四角い顔にはヴァン・ダイクの髭が短めに揃えられている。

 その男の登場と共に、周りにいた警備隊員が勢いを取り戻したようにいきり立ち、視線を鋭くして膨らむように肩を上げた。そして、俺を挟んで向かい合うようになり、ユリナたちに銃を構えたのだ。


 ただの犯罪者の引き渡しのためだけに銃まで持ち出すとは考えにくい。しかも相手は同じ国内の組織だ。

 おそらく、帝政思想(ルアニサム)の野望を叶える上で必要不可欠なことを、偶然にも実行に移した名も知らぬ市中警備隊員である俺を保護するつもりなのだろう。彼らからすれば手柄を立てたに等しい。

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