ツヴァイターラングロジェの銃声 第十五話
それを言われて俺は心臓が強く打つのを感じた。次第に呼吸も上がり始めた。
作戦の為とはいえ、何度も俺に手を貸してくれたこの人を撃つなど、俺には出来ない。
「できません」と即答した。もっと他に、誰も傷つかずにアニエスを助けられる方法があるはずだ。
「真実の愛という、この世界で最も美しいものが飾りではないことを示し、私の皇帝への忠誠を彩ってはくれないか。ルシールが撃たれた、まさにこの劇場で」
「ふざけないでください」
拒否をした。しかし、マゼルソンは「劇場はすでに市中警備隊に囲まれている。君はやるしかないぞ」と俺を急かした。
手に持っていた小箱を俺の方へと差し出すようになった。
「この物語はトゥーランドットではないです。俺が目指しているのは全てが笑って迎えられるハッピーエンドです」
俺は小箱から距離を取ろうと身体を仰け反らせてしまった。
「市中警備隊は来ているぞ。私を逮捕しにな。その中に帝政思想がいる。
……いや、この場に来ている連中は皆帝政思想だろう。突入の混乱に乗じてネルアニサムを掲げる私を殺すつもりだろう。
帝政思想を取り締まる者たちが帝政原理思想を絶やしに帝政思想の者を寄越してくるとは滑稽ではないか。
劇場を見渡したまえ、いくつもの銃口が私を狙っているぞ。引き金はアリアの最後、“勝利者となる”で引かれる。
君が今銃を持っている様子を観測手たちが見ているから、その傍で横たわる無数の引き金は握られることなく押さえられている。
君が撃たずにここを去れば、私は誰とも知らない銃弾に眉間を撃ち抜かれるだろう」
マゼルソンは止まることはない。もはや撃たれる気でいるのだ。
そう考えれば考えるほどに、呼吸は上がった。そして、足先から冷たくなるような感覚が立ち上り始めた。
「帝政思想と帝政原理思想は違うはずです。
帝政原理思想を公には帝政思想といって排除するつもりなのですか?
帝政思想が台頭してしまいます」
撃たなくていい理由を縋るように探して、咄嗟に言った。
だが、自らそう言った瞬間、全ての意味を理解したのだ。寒気は脹ら脛を登り、膝を通り越して下腿から力を奪おうとしてくる。
「だから、市中警備隊の服で来いといったんですね」
「やりなさい」
マゼルソンは繰り返した。だが、俺はそれでも「承服しかねます」と震える身体を堪えた。
「よもや使い方がわからないわけではあるまいな」




