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ツヴァイターラングロジェの銃声 第十一話

「それに心配は及ばん」マゼルソンは調子を変えずにそう言った。「君は共和国内でのアニエス女史に対する世論を知っているかね?」と尋ね返してきた。

 俺はこのオペラ座まで共和国の雨中の街中を歩いていたわけではないし、軟禁されていた部屋に新聞は置かれておらず、仮にあっても読む暇さえも無かったので、知るよしもない。「知りません」と即答した。


「アニエス女史がルーアの血統であるのは確かだが、帝政も知らぬどこぞの人間の町娘、しかもエルフの言語も理解できぬ者が亡命政府の都合によって無関係に皇帝に祭り上げられたのかと哀れんでいたり、力を持つだけで皇帝を僭称しているのだと蔑んだり、というのが共和国の世論だ。

 しかし、力を持つという事実を受け容れられずに暴れる者たちが出てくると思ったが、それは一人もいないのだ。

 これは私にも少々意外ではあった。

 皇帝だ、何だと騒いでいるのは、慌てふためく国政に従事する我々やそれを面白おかしく報道したいメディアだけではないか。

 何れにせよ、それについては世論が味方したととって良いだろう。


 ほとんど無関係であるにも関わらずいきなり祭り上げられた人間を、いきなり皇帝だからという理由で処罰するなど、人間(エノシュ)よりも高度に文明化しなおも進歩を止めないエルフのすることではないな」


 マゼルソンは少し馬鹿にしているかのように鼻を鳴らして笑った。


「ですが、真っ先に責任を押しつけられるのは彼女です。メディアが責任追及を始めれば市民はそれを真実だと思い、攻撃を始めるのではないでしょうか」


 マゼルソンは俺の問いかけには答えず、しばらく黙り込んだあと「責任、か」と噛みしめるように呟いた。


“幾久しいルーアの御代に”


 突然言葉を減らしたマゼルソンの声を聞こうと耳に意識を集中させていたので、オペラの歌詞が耳の奥に届くような気がして舞台に顔を向けてしまった。

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