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ツヴァイターラングロジェの銃声 第八話

「政治家は自分の国だけでなく広い世界に関してありとあらゆることを知っていなければいけないし、絶えず流れ変化していくもの全てを知っていかなければいけない。

 だが、どれほど自己研鑽を積もうとも、たった一つ知ってはいけない物がある。

 それは“恥”だ。

 その恥知らずでいるが故に、アニエス女史は生きながらえるのだ。

 嘘でも何でも、国益にしていくのが我々長官の仕事でもあるのだ」


「恥を知らずに愛した家族を殺せといけしゃあしゃあと言うのは、俺を焚きつけて利用して国益を得る為ですか」


「そうだ。しかし、君は焚きつけられなくても我々に同意した上でマルタンに行くかと思ったが、随分腐っていたではないか。

 ユリナ長官たちも乱暴な物言いをしなければ動かないと思ったのだろう。実に面倒くさい男だ」


 図星を突かれて何も言えなくなった。


「彼らにも女皇の利用価値はあるのだ。

 真の目的は帝政ルーア亡命政府の正式な女皇になったアニエスの誘拐だ。君からすれば救出ということになるな。

 その後、説得し皇帝自身による帝政ルーアの放棄を宣言させる。

 なに、乱暴なことはせんよ。イズミの共和国での仕事を失わせたくなければ帝政を放棄しろと軽く脅させて貰うぞ」


「アニエスがそれを放棄するかどうか、ここではっきりは言えません。おそらく放棄はするでしょう。説得するなら俺がやります」


 マゼルソンの今ここで考えていることが分かったような気がした。それが彼の目的のための思考における氷山の一角ですらないことも。


「なるほど、それを軍部省の関係者ではなく、帝政思想(ルアニサム)やネルアニサムが多くいる法律省下の市中警備隊で皇帝を救出せよということですね。

 それにより生じる共和制和平派の軍部省、金融省と法律省の対立はメディアや民衆向けのエンターテインメントですか」


「エンターテインメントか。

 確かにメディアはそれを真贋織り交ぜて大げさに報道し感情を惹起させる。そこで生まれる感情は不安や怒り、抑鬱、絶望、負のものだ。

 エンタメが喜び楽しみを生み出すだけのものではないと言えるのであらば、確かにエンターテインメントといっても差し支えないな。君も分かってきたな。

 国民には適度の緊張感が必要だ。長官が全て和平派であるなど、平和中毒も甚だしい。私は“緊張感のある平和”こそ真の平和だと考える。

 平和の中にも緊張感をもたらすことで、それを維持しようと皆努力するからな。

 人間たちの争いなど、我々からしたら些細なことだ。だが、それを大きく誇張することで緊張感も出る。

 それ故に、こちらの上層部も必要以上に見かけの対立を煽らなくて済む」


「俺からしたら、アニエスを助けられればどこの所属でもいいのです」


「君個人ではそうだろうな。だが、繰り返すが市中警備隊の制服で行け。これは私からの命令だ」


「わかっています。了解、とでもいいましょうか? ですが、あなたのことは口外しませんよ」

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