ツヴァイターラングロジェの銃声 第七話
最初に言い出した者は、皇帝を人でありながら神たらしめようという純粋な精神で崇拝をしていたかもしれないが、人が増え長きときが過ぎるうちに悪質に変化したのだろう。
「古さで言えば、確かにルアニサムの方が遙かに古いかもしれない。だが、それも彼らの主張の中だけだ。
その一方で、私の掲げるネルアニサムは、名前こそ私が付けたものだが、二千年前の恥ずべき三度の先非以前から確実に存在している我が一族の理念に基づいている。より正統な皇帝崇拝思想だ」
「思想が宗教じみているなら、歴史の古さよりも教徒の多さで偉大さが決まるのでは?
たといまだカルトであっても、多くが信仰していれば同調によってドミノ倒しに増えていき、やがてそれは国教にすらなり得ます」
「では、ネルアニサムもカルトだな。
皇帝というある意味での教祖だるアニエス女史がまだ生きているではないか。教祖が復活したと言えば奇跡の度合いが増すな。ふふっ。
何れにせよ、私も君も新しき皇帝に生きて貰わなければならない」
「ですが、ユリナ長官は殺すつもりですよ。陰でこっそり殺して、病死したという公式発表をするようなものではなく、大衆の面前で見せつけるように殺すつもりです」
そう言うとマゼルソンはあんぐり口を開けて俺を見つめてきた。そして、「君は馬鹿かね」とやや腹の立つような高い声色でそう言った。
「なぜ、ギンスブルグ夫妻が、いや、軍部省と金融省の長官があのような作戦の会議に君を呼び出したと思うかね? そして、君の意見をあまり聞き入れず淡々と進めたのか」
「俺が自分たちの計画における手段の一部だからではないのですか?」
「皇帝に死なれて困るのは君と私だけではない。ギンスブルグ家も表向きは殺害せよと言っているが、裏では救出して欲しいのだよ。
皇帝という立場は非常に使い勝手が良い。無論、アニエス女史は無知だからコントロールしやすいと言っているわけでは無い。
君も知っての通り、彼女は賢い。如何に当事者が賢かろうとも、皇帝という立場は共和国ではかつての絶対的な力の強烈な残り香を持つのだ。
何度も言われて理解しているとは思うが、君や彼女自身が持つ力そのものも脅威だ。
何でもかんでも殺して終わるのは、光の当たらない世界でやれば良い。今回の作戦は女皇暗殺計画ではないのだ。殺すのは皇帝という立場だけだ。
一方のユリナも、事が終わり名目上の失敗であるアニエス女史の生存という結果となったとしても、何事もなかったように軍部省長官として職務を続けるだろう」
「随分一貫性が無いですね」




