帝政思想(ルアニサム)
人類を研究したエルフの学者の言葉を借りて、話は始まる。
文明や社会を築いた生物の個々の知能が高度になればなるほど、集団は意思の統一を計るために、集団に所属する全ての者と同じ価値観を偏り無く持つ統治者の出現を願うようになる。
だが、そのような者はいない。
統治者として選ばれた者、名乗りを上げた者は価値観の合う者だけを偏重し、群れ、権力を集中させ、やがてそれに溺れて暴走するのは確実なのだ。
繰り返した失敗の末に、暴走をしない絶対的な存在を作り出そうとする。
その者が言ったことは絶対であり、如何なる時もそれに従う。その内容の正誤の如何に関わらず、集団の意思は統一される。
だが、同類ではまた繰り返すことになる。そこで、自然の中に見いだした不可解な現象、例えば水害、雷、火災、地震といった災害などにそれを見いだす。
それはつまり神を見いだすことである。そして、宗教となる。
だが、ルーア、つまりエルフには宗教という概念がない。
時空系魔法という絶対能力を持つ者が絶対統治者として現れたからだ。
時空の支配はいわば万能に等しい。人間で言うところの神にも勝るとも劣らぬ力。
ルーア一族が現れて、森を焼かれるか弱きエルフの時代は終わった。森を切り開く賢きエルフとなったのだ。
宗教がないエルフたちが何故神や宗教を知り得たのか。それは人間の存在があったからこそ神と宗教の概念を知ることが出来たのだ。
エルフたちにとって皇帝は、人間で言うところの神なのだ。
神との違いがあるとすれば、統一する為の決まりを作り出すためだけの存在ではなく、この世で生を受け日々息をし食事をする目に見える実体であることだ。
皇帝はその大いなる力を使いルフィアニア大陸を統治できた。だが、この世で生を謳歌している統治者である限り、泣き笑い怒り悲しむ。
誰もが皇帝を喜ばせようと集まり、次第に権力が集中するようになっていった。より気に入られた者ばかりが集まると国家は脆くなってしまい、実際に堕落しつつあった。
そこで皇帝は特殊な教育を受けることになったのだ。俗世からは引き離され、自らの感情を封じ、喜怒哀楽に容易に流されないような存在になるべく。
しかし、それはあまりにも非人道的である。皇帝の権威はおとしめること無く、その精度を廃止すべきだと訴えた者が、活動の中で唱え始めたのが帝政思想であると彼らは言っている。




