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紅袂戦役 最終話

 ヘルベルトは極秘裏にマルツェルと面会し「フェルタロス家の敗北は間違いない。敗北を喫すれば一族は完全に潰えてしまう。ヘルベルトはそれだけを絶対に回避した」と何度も訴えた。

 しかし、彼は最初は受け容れられなかった。命辛々会いに来たというのに門前払いまでもされたこともあった。


 やがてヘルベルトは自らの命を捧げてもかまわないからフェルタロス家を潰さないで欲しいと言い始めたのだ。

 マルツェルはそれまで冷たく遇っているだけだったが、その言葉に激怒した。「死に急ぐ命に価値はない。甘えるな。たかが命一つで救えると思うな」とマルツェルはヘルベルトを一括したのだ。

 だが、命を賭してまでも主君を守りたいという忠義を見いだされ、マルツェルはその願いを聞き届けることにしたのだ。


 敗北の意思表示はヘルベルトの独断だった。フェルタロス家重臣たちは自分たちの意向を無視されたことに憤るかと思ったが、もはや戦う気力は失っていた。

 ルドウィークの次男も、人生の大半を共に過ごし、窮地を乗り越えてきたかけがえのない存在である三男を失った時点ですでに戦意を失っており、ヘルベルトの行動によって戦いから解放されたことで膝から崩れ落ちて涙を流して喜んだ。


 重臣たちはすぐに負けを認め、ルーア家に従った。

 多くの重臣たちはフェルタロス皇帝から引き離された。しかし、有能な者も多かった為、重役ではないが要職に就く者がいた。


 そして、戦いを終わらせることに尽力したヘルベルトもまた優秀であった。

 彼は軍職を離れることを命ぜられた。そして司法を司る役職に宛がわれたのだ。


 ベタルにあったフェルタロス家の王城は、元あった村と村民たちの利便を考慮したもの以外を残して、フェルタロス一族に関連するものは全部取り壊されることになった。


 ただの権力闘争に留まらず、皇帝一族の血よりも濃い絆と慈悲深い心を象徴するようなその出来事により、改めて帝政はより強固なものになったのだ。

 それ故に、その後二千年という長い時間崩れることはなかったとも言える。



「――私の一族はルドウィークに仕えていた。そのときから帝国には絶対の忠誠を誓ったのだよ」


「つまり、あなたの先祖はルーア皇帝一族に旨くすり寄ることのできた者の中の一人と言うことですね」


 俺の言葉にマゼルソンは少しばかりムッとしたように口を紡ぎ、睨むと言うほどではないが強く見つめてきた。

 しばらく黙ったあとに前を向くと、

「その者たちには是非とも感謝をして貰いたいものだな。ヘルベルトの姓はマゼルソンという。つまり私の祖先にはな。君の内縁の妻も彼がいなければ存在しなかっただろう」

 と言ったのだ。

 俺は言葉と一緒にうっと息をのんでしまった。

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