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ツヴァイターラングロジェの銃声 第一話

「どうかね。この席は」


「世界は混沌に満ちているのに、共和国は平和ですね。長官がのんびりオペラをたしなめるほどに」


「皮肉を言うならもう少し気の利いたことを言いたまえ」



 マリークの渡して来たチョコの包み紙はマゼルソン長官からのメッセージだった。

 ヘルベルト製菓の包み紙の裏側に

「市中警備隊の制服を着て十九時にグラントルアのオペラ座へ。右から三番目の入り口で『ツヴァイターラングロジェのルシール・アギヨンの紹介』と伝えるべし」

 と書かれていたのだ。


 しかし、俺はこれまで共和国軍の軍服は用意して貰ったが、市中警備隊の制服など持っていなかったはずだった。


 部屋のウォークインクローゼットを開けると、久しく開けていないそこへ光が差し込んだ。埃は一つ立たないのは、女中さんたちが絶えず掃除をしていてくれたからだろう。

 アニエスの着ていた服、イングマールの軍服、俺の共和国軍の制服、その奥に見慣れない洋服カバーが掛かっていた。

 他はナフタレンの匂いが染みついているが、それだけはごく最近掛けられたようで、紡毛を固めたような素材のカバーすら新しい。

 手に取りカバーを開けると、鶯色をしたダブルボタンのジャケットが出てきた。それは市中警備隊の制服だったのだ。手袋やハンカチ、オペラ座へ向かうための正装の準備が一揃え揃っていた。

 さらに驚いたことに、その下に置かれた横長の桐の箱には取り上げられていた俺の杖が丁寧に入れられていたのだ。

 先ほど運び込まれていたクリーニング屋の衣類の返還に紛れさせてここへ送り込んだのだろう。


 先ほどの会議の途中でマゼルソンがした目配せの意味を知るため、否、それ以上の何か――マゼルソンが何かしらの手助けをしてくれるかもしれないということへの期待をしていたために、俺は向かうことを決心するまでの時間は要さなかった。

 俺は時間を待ち、一時間おきの定時巡回が着た直後に制服に着替え、マリークに部屋に来るように頼み、彼と入れ替わるように抜け出してグラントルアのオペラ座へと来ていた。

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