青年の決意 最終話
マリークは「あります」と言うと背中から銃の形をした杖を持ち上げた。両手で丁寧に持ち差し出してきた。
俺はそれを持ち上げて、銃口を上に向けた。撫でながら全体を見渡したあと、バットの付け根を開けた。
そこに入っていた黒い水晶を引っ張り出した。周りについていた金具やケーブルごと、それを思い切り引きちぎった。
「先生!? な、何するんですか?」
マリークが焦ったように声を裏返らせ、俺と杖を交互に見つめてきた。止めようと両手を慌てて前に出した。
だが、俺は構わずにその親指大の黒い水晶を地面に投げ落とし、思い切り踏んづけた。薄い氷の箔を割るような音がした。
「……お前の銃のリミッターを外した。誰も撃つな。もし撃てば銃ごと壊す」
足を上げると、粉々の黒い結晶は砂になりカーペットの起毛の間に消えていった。
バットの付け根の蓋を閉め、マリークに押しつけるように差し出した。
「怪我するな、死ぬな、仲間を見捨てるな、そして、誰一人傷つけるな。命を大事にしろ。約束しろ。俺はリミッターを外した。お前が嫌だと言っても、それはもう約束として成立した」
マリークは驚いたように目を見開き、銃を瞬きせずに見つめたあとに、これから起こること、起こすことの全てに決心したかのように肩を上げて鼻から息を吸い込んだ。「はい!」という威勢の良い返事と共に銃を強く握った。
ガキのくせに粋がりやがって。俺も行くしかない。マリークの狙い通りにする為に。
俺が笑いかけると、マリークも笑い返してきた。
だが、突然両眉を上げて、何かを思い出したようにあっと声を出すと「それから……」とポケットを漁り小さな紙切れを持ち出してきた。それはクシャクシャのチョコの包み紙だった。
「チャリントン、覚えていますか?」と尋ねてきた。
「確か、リボン・リバース団にいた太った子だよな?」
マリークは深く頷いた。
「彼らからコレを預かってきました。先生に渡して欲しかったそうです。僕は中身を見るなと言われていました。どうぞ」
そういうと包み紙を握らせるように手渡してきた。
「先生がこれから何をしようとも、マルタンにいると思って僕は僕に出来る行動をします」と言って立ち上がり、「では、失礼させていただきます」とドアの方へと歩み出した。
俺は出て行こうとするマリークの背中を見送りながら、包み紙を開き中身を読んだ。その内容に俺はハッとした。
「あ、マリーク」とドアノブに手をかけていたマリークを呼びつけた。
「ちょっと待ってくれ。一つ、頼まれてくれないか?」と驚いたようにこちらを振り返った彼に言った。




