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青年の決意 第四話

「そんなに簡単じゃないんだ……。何度言えば……」


 かすれた声でそう言うと、床を見るとカーペットの上に影が近づいてきた。マリークが目の前に立っているのだろう。


「先生は一人だから簡単じゃないんです」


「俺以外はみんなアニエスを殺すつもりで動いている。どうしろって言うんだ」


「先生は一人ではありません」


「仲間はいない。今回の作戦にかつての仲間を呼ぶことは出来ないんだ。みんなそれぞれに思惑があって、それがかみ合わないんだ」


「先生は、たった一人ではありません」とマリークは同じ言葉を繰り返した。顔を上げてマリークを見ると、唇を一文字に結んで力強く俺を見ている。


 そして、「僕がいます」と言ったのだ。


「僕は狙撃部隊に志願します。僕には先生たちのくれた銃があります。毎日それで練習をしてきました。

 僕の杖は魔法射出式銃ですが、雷管式銃の扱いも慣れています。狙撃部隊に志願して、採用されるほどの実力はあります」


「ダメだ」


 当たり前だ。俺は即答した。


「君を巻き込むわけにはいかない」


 小さな頃からその成長を見守ってきた男の子を、いくら大きくなったから、武器が扱えるからと言って戦争に行かせるなど、俺には出来ない。

 だが、覇気の無い俺の言葉など、前だけを向いて足下さえ見ていない危うい勢いのあるマリークには届かなかった。


「お前が狙撃部隊に参加してどうするつもりだ? 何も出来ないとは言わない。だが、何をどうするか言え。それでも俺は反対だ」


 マリークは意外にもしっかりと頷いたのだ。

 若さの勢いで助けに行けと何も考えずに言っていると俺は思っていたのだ。


「アニエスさんには皇帝になって貰うのです。先生はママやパパ、ルカスおじさんが立てた作戦通りの期日にマルタンへと入って、そして、アニエスさんが皇帝として自らの立場を表明してから救出すればいいのです。

 そうすれば、帝政ルーアは再び興ったことになります。アニエスさんが皇帝となることで彼女自身という小さな国土の中に絶対的権力が生まれます。

 その口で亡命政府や帝政思想(ルアニサム)の人たちに戦いを止めるように言って貰えばいいのです」


「アニエスは宣言をしたらすぐに狙撃される。タイミングがない」


 マリークはまた「僕に任せてください」と力強く言った。


 鼻を膨らませて自信に溢れた顔をしていたので「何をする気だ?」と尋ねた。その瞬間、ドキリと肩を浮かせた。


「言えません。ですが、信じてください」


 表情にも不安が垣間見える。いったいどんな危ないことをしようとしているのだろうか。


「そんなのは、ダメだ。言えば俺が止めると思ってるんだろ? 部隊に加わること以上に危険なことはさせたくない」


 俺が否定的に戻ったのを察したのか、マリークは焦るようになり、「先生、これはアニエスさんを助けるチャンスを増やす為です。僕にもそれを手伝わせてください」と手を動かしながら付け加えた。


「何をするのかは知らないけど、お前も一人で戦うことになるんだろ」


「僕も一人ではありません」とマリークは余裕のない笑みを浮かべた。


「オリヴェルも付いてきてくれます。彼も狙撃の腕はやはり素晴らしいです」


 オリヴェルか。マリークの唯一無二の親友だ。

 あの子も相当大きくなっただろう。マリークよりも一つ頭大きかった。俺などとっくに抜かしているだろう。

 彼は父親が自殺した。無茶をする家族がいたから、また何かを失うわけにはいかないだろう。きっとマリークが無茶をすれば止めてくれるかもしれない。


 ため息が出た。肺の中にある空気を全て出して、顔を擦り、マリークの方を向いた。


「マリーク、今杖は持ってるか? 見せてみろ」

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