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青年の決意 第二話

「とりあえず入れ」とドアを開けて左右を見回した。女中部隊の監視は廊下の両側にいた。

 その監視たちにあえて聞かせるように「カミーユの話か? マセガキめ、のってやるぜ!」と大きな声を出して、わざとらしい笑顔を浮かべて気さくに親指を立てた。


 マリークは真剣な顔の瞳を睨むように強め数秒間そのままだったが、何かに気が付いて、はっとした。

 そして、辺りを警戒するように視線だけを素早く左右に流した直後に「じ、実はそうなんですよ。へへへ」と恥ずかしそうに後頭部を掻いた。


「おう、入れ入れ」とマリークを部屋の中へと導き入れ、俺は背中でドアを閉めた。

 ドア越しに廊下の音に聞き耳を立て、ドアの前に女中部隊が近づいているかどうかを確かめた。音を立てないように指先に力を込めて鍵をゆっくりと閉じた。

 そのまま寄りかかり、マリークの方を見た。


 マリークは椅子に座ることはなく、真っ直ぐと背筋を伸ばして立ちこちらを向いている。

 改めてみると、やはり彼は大きくなっていた。大きくなった肩や背中からは、希望と頼もしさ、継母に似た無鉄砲さが沸き立ち、そしてほんの少しの寂しさがこみ上げてきた。

 息を吸い込み気を取り直して「大事な話ってのは何だ?」と尋ねた。


「今回の作戦の話です。聞きました。アニエスさんを殺害するんですよね?」


 躊躇無く、すぐに早口でそう言った。

 俺は思わずマリークを睨みつけてしまった。だが、マリークは視線を逸らすことも動揺することもなかった。「先生はアニエスさんをどう思ってるんですか?」とマリーク自身さえも分かりきっているにもかかわらずそう尋ねてきたのだ。


「俺の大事な人だ。失いたくない。かけがえのない。そんなの分かってるだろ?」


 俺は、もしかしたら、これまでそうはっきりと言ったことはないかもしれない。

 それも、アニエスの命を狙う者たちの前でだけではなく、彼女と過ごした長い時間の中全てにおいてだ。

 言葉にして初めてそれに気がついた。


「では先生はどうしたいですか?」


 年下の男に試すような事を聞かれてしまい、情けなさがこみ上げてきた。


「助けたい。だけど」


 マリークから視線を外して、窓の方を見た。カーテン越しに窓に打ち付ける雨音が聞こえる。だが、マリークは止まらなかった。


「だけど、何ですか? そうやって、やらない理由でも見つけてるんですか?」

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