青年の決意 第一話
日が暮れるまでまだ時間があるのか、窓の外はねずみ色の空をしている。
風も吹いているのか、窓には雨粒が吹き付け、庭に並ぶ木々が黒々と揺れているのが見える。その遠くに、グラントルアの街明かりが滲んでいる。
マゼルソンの意図を組む為に俺はここに居続けていた。さすがにあの目配せだけで全てを察せなどと言うことは彼はしない。俺の頭がそこまでいいわけも無いというのも知っている。
開かない窓の先に見えるデッキに部屋の灯りが差し始めたので、俺はカーテンを閉めた。
だが、時間ばかりが経過していく。ここに送られて何時間経過したのか。
ライティングビューローの椅子に腰掛けた。肘を突こうと天板を引き出すと、化粧道具が落ちていた。前回アニエスが使っていたものが転がり落ちて隙間に入っていたのだろう。
つまみ上げ、手を返してみているとドアがノックされた。
返事はせずにドアの方を睨みつけると、再びドアがノックされ、「イズミ先生」とドア越しに声が聞こえた。
声変わりしたばかりの若い男の声だった。俺は先生と呼ばれるような心当たりはない。
いったい誰かと思い、ドアを開けるとそこには目線と同じくらいの身長の男(の子と男性の中間くらい)が立っていたのだ。
それはなんとマリークだったのだ。
写真を撮ってからほんの数ヶ月しか経っていないというのに、あっという間に大人になってしまったようだ。
エルフは人間より寿命が三割ほど長いというのに、成長は異様に早いのだ。
背はずんずんと伸びてもうひと月もすれば俺など抜いてしまいそうになっていた。顔にはまだあどけなさは残るものの、それも後僅かで消えてしまいそうなほどで、こちらの郷愁を誘う顔つきだった。
真剣な眼差しで俺を真っ直ぐに見つめてきて、覚悟を決めて何か大事なことを伝えに来たように見えた。
「マリークか、久しぶりだな。そんなに時間も経ってないのに、お前デカくなったな」
「先生、その話は置いておきましょう。大事なお話があります」
声まですっかり野太くなっていた。その成熟を目前にした声は真剣そのもので、その真剣さには相手に覚悟を押しつけてしまうような思春期特有の力強さがあり、正義というものはまだ世界に溢れて、そして自らが信じる正義こそが絶対でそれを押しつけるような一方的な、それでいて脆く危うい声色だった。




