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車中の思惟 第一話

 グラントルア評議会議事堂からは、ウィンストンの運転する車でギンスブルグ邸まで移動になった。


 ユリナやシロークは国内のことで引き続き会議があり、まだ帰宅するような時間ではないそうだ。

 俺は一人で乗らされて帰ることになった。


 座席のシートは革製なのか、冷たい動物の油っぽい匂いがする。それも張り替えたばかりで新しいのだろう。なかなか鋭く鼻の奥に突き刺さってくる。窓を開けたいところだが、許しては貰えないだろう。

 小刻みに揺れる車内でルームミラーを見ると運転手と視線がぶつかる。一度ではなく、ちらちらと何度も目が合うのだ。


 監視はウィンストン一人だけだ。

 ユリナとシロークがウィンストンへと向ける信頼の証だろう。それとも、単に俺が舐められているだけかもしれない。


 議事堂からギンスブルグ邸まで、車でおよそ三十分くらいだろう。

 外は雨降りで、窓は雨粒でぼやけた視界と曇り空の白だけだ。はっきりと見えない街の様子は水分を混ぜすぎて滲んだ絵の具のようになり、窓ガラスを垂れていくと崩れていき、何かの形をなしているとは思えなくなる。

 意味の無い物をだらだらと見続けるのはすぐに飽きる。

 後部座席で俺に出来ることは、金属の天井に打ち付ける雨音を数えるか、ときおりミラー越しに運転手と視線をぶつけるくらいしかすることが無い。


 それにもすぐ飽きて何をするでもなくなると、置かれている状況と起きている事態を強く考えてしまうのだ。


 俺はアニエスに会いたい。助けたい。

 少し前、ほんの数ヶ月前のユニオン独立の前後、いやルスラニア王国建国前後だったら、俺は何も考えずにマルタンに突っ込んでいっただろう。

 何の躊躇も無く堂々と移動魔法でマルタンの市街地に乗り込み、人目も憚らずアニエスの名前を大声で呼んで探し出し周り、そして、見つかれば「帰ろう」と両手を広げて笑顔を向けていただろう。

 まるでそれが全ての正解であり、ドラマティックで感動的な再会を俺は演出しようとしただろう。


 今でこそ分かる。それは感情的すぎなのだ。自らの感情を爆発させ、周りの事柄を全て無視しているのだ。

 無視しているだけならまだしも、間違っていることに何一つ気がついていないのだ。


 だから、アニエスもそれを理解していたからこそ、俺を泥酔させてからこっそりと現地へと向かった。


 自分の中にある感情的な思いを前日の夜に俺に全てぶちまけて、ある程度身体を軽くした上でクロエの話に乗ったのだ。

 残酷なことがあるとすれば、彼女の思いをぶちまけられたうえで置いて行かれた俺はその全てを吸収したまま、行き場の無い感情に苛まれることになった。

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