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巨塔集う 最終話

 話を振られず、輪に入れずに拗ねていた俺は「俺はヒミンビョルグの山小屋に帰らせろ。あんたらの話にはもう参加したくない」と顎を引いてぼそぼそと言った。


「そうはいかんな」とルカスは首を振った。

「解放すれば君はマルタンに向かうかもしれないが、君一人の独断では困る。マルタンに向かうのは構わないが、こちらの作戦に則った行動をして貰わなければいけない」


「私もそう思うぞ。この男は何かと逃げる癖がある。ユニオンは監視が緩かろう。共和国に滞在させるべきだと思うがね」とマゼルソンは久しぶりに口を開いた。


 個人的には、先ほどの彼の目配せも気になる。会議にも積極的な参加を示さなかったマゼルソンの庇護下に入りたいところだ。

 何を考えているか分からずこれまで知らずの内に俺を利用してきたこの智略魔王に、俺はにわかに期待をしていた。

 逃げ出して山小屋に帰りそこからユニオンに入るか、このまま黙って指示に従ってユニオンに入るか、いずれにしてもユニオン入りのは確実だ。

 どちらが正しいのか、俺は決められなくなっていた。どちらで動けばアニエスが生き残れるか。

 逃げ帰ればこの人たちは容赦が無くなる。従ったとしても殺される結果は同じだ。


 マゼルソンの派閥が支配するどこかの宿を手配して貰えるのではないか。

 あわよくば様々なことで俺の味方をしてくれる屈強な秘密部隊を手配してくれるかもしれない。

 それを最大限利用して、ここでは従ったふりをしてアニエスを助け出せるのではないか、と思い始めていた。

 しかし、そこへユリナが「お前んちも含めた、お前の息がかかったとこで泊めさせるのはできねぇ相談だ」と突っぱねた。


「当たり前だ。私の家は全てが文化財だ。誰かを泊めるわけにはいかない。ましてや、この、どこかの軍部省長官顔負けの粗忽者など」


 マゼルソンもそれに無表情で淡々と答えた。俺の期待を返せ。


「コイツは重要人物だ。首都のホテルに泊めるのは無理では無いが、警備を今から敷くとなると大変だぜ? 白服機関の移動魔法監視も指示しなきゃいけないしな」


「となると、ギンスブルグの方で今日は泊めて貰えないか? イズミ君の役割はマルタンにいるだけだが必要不可欠だ。彼の所在をはっきりさせることがこの作戦成功の要だ。いなくなられては困りものだ」


「おっけー。よーし、イズミ。お前は今日私んち泊まれ。マリークも会いたがってるぞ。今夜はご馳走だぁ」


 ユリナは声の調子を変えずにすぐさまそう言ったのは、最初からそうすると決まっていたからだろう。

 おそらくルカスはそれを考えていなかった。だが、彼もグラントルアに来るのだから現地で対処するという考えを持っていたのでそうなるであろうとは思っていたのだろう。

 そして、目の前で繰り広げられていた茶番で、ルカスがその提案をするように誘導しているかに見えた。マゼルソンまでもがそこに演者としているようにも感じた。

 ここ(共和国)にいると、目に見えるもの、手に触れるもの、聞こえる音、匂い味の全てが謀略の渦に引きずり込まれて沈み、その底に堆積した毒気と混じり滴り貼り付くような不快感を帯びている気がする。


「イズミ君、すまないな。今言ったとおり、君は作戦に不可欠な存在だ。拘束はしないが監視は付けさせて貰う」


 シロークが仕方なさそうに眉を下げて笑うとユリナの方を見た。ユリナは腰から杖を持ち上げて軽く振った。

 すると手足と腰の錠の内部で小さな金具が外れる音が四回ほどし、止めていた拘束具は緩くなって外れ、地面に転がり落ちた。


「窮屈な思いばかりだな。ウィンストンが送ってくれるだろう」

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