巨塔集う 第十話
「わかんねぇか。おたくもマルタン戦線で実施するか検討されてたみたいだが、まだ実戦には移してないからな。
要するに、空から爆弾落とすんだよ。炎熱系の魔石ガン詰めの焼夷弾をホイホイーっと」
ユリナは掌を高く掲げてひらひらと動かしたあとに、ぼぅぼぅぼぅっと口を膨らませて破裂させるような音を出した。
ルカスは椅子を倒して勢いよく立ち上がり「そ、それは一度検討していただきたい!」と焦った顔で両手を伸ばしてユリナに迫った。
「ご、ご存じの通りマルタンは芸術都市として名を馳せている。建造物の多くが観光資源として機能している。歴史的価値も相当な物がある。で、出来る限り破壊を抑えていただきたい!」
ユリナは裏返った声で早口でそう言ったルカスを見ると「冗談どぇーす」と笑った。
「マルタン復興にはビジネスが欠かさない。バカスカ撃ちまくって突撃するような、何もかも薙ぎ払うような戦闘はしない」
ルカスは安堵したように肩を落とし咳き込むと「あまり冗談は控えていただきたい」と平静を取り戻し椅子にゆっくりと腰掛けた。
「で、目立つ行動をするわけにはいかないから、現地に行くのは移動魔法を使う」
ルカスはユリナの発言に眉を寄せて首をかしげた。
「そのポータルを誰が開くのかね? たった今頼りないと言ったイズミ君かね?
我々のヤシマは外交官であり非戦闘員だ。戦後処理などに必要な存在であり、怪我など追わせるわけにはいかない。非常時とはいえ動かすわけにはいかないぞ」
「ヤシマが外交官で非戦闘員とか、何言ってんだよ。あいつぁ、日陰で人殺しまくってんじゃねぇか。まぁいいか。そういうのはどの国にもいるからな。
私だよ。あんたも私がマジックアイテム持ってるのは知ってるだろ? マルタンには行ったことがあるんでね。まぁそれも十年以上前でだいぶ様相も変わってるだろうが」
「……ああ、なるほど」とルカスはやや不満そうに呟いた。何が不満なのかまではわからない。
おそらくルカスはユリナの移動魔法マジックアイテムの所持については知らない。保有する戦力的優位性があると思い込んでいたのだろう。
「スピーチが行われるのはマルタン芸術広場だろ。皇帝になるという宣言と同時に狙撃、それを合図に暫定王宮、政府中枢の掌握が大まかな流れだ。
芸術広場を囲む建物はおそらく警戒されて、厳重な警備が敷かれている。狙撃直前に兵と観測手を送り、警戒している兵士たちを隠密かつ電撃的に制圧してまず狙撃ポイントの確保だ。
その後スナイパー部隊を狙撃ポイントへ移動させる。伝令の兵士は殺さずに脅迫し、問題の無い定時連絡をさせよう。脅すよりカネ握らせる方が従順か?」
「どちらでも構わないが、そんなに簡単にいくのかね? 狙撃というのも私はあまり実戦で見ていないので判断しかねるが」




