巨塔集う 第一話
クソ。まただ。
また失神させられた。俺は弱い。こういう所だ。仲がいい、顔見知り、身内だからと言って簡単に相手を信頼して、警戒を緩めるところがダメなんだ。
だが、どこに連れて行かれたのかは分かっている。グラントルアだ。
「どうやらイズミ君がお目覚めのようだ」
意識が戻り始めや否や、やたらと大きな男性の声が聞こえた。
野太く、低い声がよく通るその声の主はすぐに分かる。ルカス・ブエナフエンテ大統領だ。
何故、ルカス大統領がグラントルアにいるのだろうか。
だが、考えればここにいてもおかしくない。
ユリナとウィンストンはアニエスを殺す為に俺をグラントルアまで拉致した。
そのアニエスは亡命政府が皇帝として擁立しようとしているのでマルタンにいる。マルタンはユニオン領だ。強欲な彼が自らの土地を取り返す為に、共和国の作戦に参加するのは当然だ。
瞼を開けるよりも先に「なんであなたがここに」と声に尋ね顔を手で擦ろうとしたが、何かが引っかかり腕の動きが抑制された。
無意識の動作を止められ、僅かに身体が浮いた。すると、腰も何かに抑えられていた。
不快感に意識がよりはっきりしてきたので目を開けて腕を見ると、手には8の字の錠をされていた。視線を動かし下半身を見ると、椅子に腰と足が拘束されていた。
まるで凶悪犯罪者を押さえ込んでいるようだ。
驚いて身体が反射でびくつくと鎖が床を重く擦る音がした。
ルカスがこちらを振り向くと、目尻を下げて哀れむような顔をして、
「ユリナ長官とカルル閣下の話では君はユニオンの所属と言うことになっているらしいな。少々手荒い方法をとってすまない。だが、事態が事態だ。しばらくはそうしていて貰うぞ」
と諭すように言った。だが、前を向くとすぐさま気を取り直したように表情を戻した。
「さて、イズミ君も目を覚ましたことだ。今回の作戦についての会議を始めさせていただく」
ルカスはまだぼんやりしている俺を差し置いて、椅子から立ち上がると書類を持ち上げて話を始めた。




