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マティーニに銃弾を 第五話

「正確には、だった、だ。冥界の吹雪など今となっては大げさな二つ名だな。

 集団同士での戦いにおいて、目覚ましい成果を上げてきた。貴様が上将として戦いの指揮を執っていた離反当初はまだ銃は無く、魔法を使う集団対魔法使う集団の戦いが多かった。

 北公に魔法使いは少ない。魔法使いという戦力が圧倒的に劣勢でありながら、その手腕を遺憾なく発揮し勝利を重ねてきた。

 だが、北公はアスプルンド零年式二十二口径雷管式銃を開発し、その汎用性の高さにより元貴族兵に限らず徴用や志願してきた下級兵士にすら行き渡った今、戦い方は大きく変わった。

 現代戦は魔法集団対銃集団だ。やがては銃集団対銃集団に置き換わるだろう。

 これまでの用兵学と基礎は同じであっても、戦い方は全く異なる。通用しないと言っても良いだろう。

 事実、戦線も停滞していたではないか」


「それは黄金捜索のための戦略的停滞でしょう。

 我々はどこよりも誰よりも先んじてビラ・ホラへは到達し、そこにある硝石も手に入れることが出来た。

 ルスラニア王国という野蛮だが強大な戦力もシーヴェルニ・ソージヴァルに加入し我々の下についた。

 予定に何の問題も起きなかったではありませんか」


「そうだな。イズミ君たちは黄金よりも価値のある硝石の山へと我々を導いてくれた。そして、我々はルスラニア王国を対等な国家として認め、シーヴェルニ・ソージヴァルに加わることを要請した」


 閣下は一度言葉を止めると、背中を向けて外に目をやった。


 そして、「だが、伝えてはいないが、実は全てが予定通りではなかったのだ」と冷たく言い放った。


「前線はもう少し南下していたところで停滞させる予定であった。

 だが、予定していた線に達すること無く、停滞は起きた。予定していた意図的な停滞ではなく、その現場によって引き起こされた停滞だ。

 その戦線の位置が、運良く“ヘスカティースニャ計画”に差し支えが無い、というだけであって予定通りではなかった。

 そのとき、最前線で指揮を執っていたのは一体誰だ?」


 言葉の調子はいつもと変わらない。だが、目を合わせぬ閣下の背中には目に見えて怒りがこもっていた。

 その問いかけにヘルツシュプリングは肩を飛び上がらせて焦りだした。


「あ、あのとき指揮を執っていたのは私だけでは無いはずです! ハルツェンブッシュやオーケルドも!」


「彼、彼女は自らの不甲斐なさを恥じていた。恥の一つ感じぬ貴様とは違ってな。

 銃が主戦力であると念頭を置いた用兵も身につけようと苦心し成果も上げていた。だから今も前線にいるのだ。

 問題が無いことと予定通りであることは違う。

 よもや魔法に固執して二人の足を引っ張っていたことにも気がついていないのか?」


 ヘルツシュプリングは黙り込み、下唇を噛んで震え始めた。次第に丸い顔も赤くなり始めた。


「よかったな。報告する意味も無いような事態で収まって。

 貴様が私に黙って現場で裁判を行おうとしたイズミ君と、貴様がアバズレと暴言を吐いたアニエス中佐……いや、着実に出世を繰り返し、今や貴様は会うことすら叶わないようなほど偉い下将だったな。

 その二人に大いに感謝したまえ」

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