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慟哭の痕 第十五話

「とか何とか言って、私らきちんと誘導したじゃねぇかよ。気になってんだろ?」


 ユリナは間髪入れずにニヤついた顔でそう言った。唇と唇の間に見えた白い歯が不愉快で、胸の辺りが熱くなりそれがすぐさま頭に登るのを感じた。


「ああ、そうだとも。気になって仕方が無い! 幻肢痛まで出始めたくらいだ。俺にとって、アニエスだけがそれを考えなくさせてくれる存在だったんだよ!」


 カッとなりやすくなっているのを自分でも感じる。だが、分かっていてもアニエスの話になると抑えられない。左手を突き出して見せつけたあと、柱に拳を打ち付けてしまった。

 柱が揺れると小屋全体が揺れて埃がパラパラと落ちてきた。


「セシリアがいなくなって、辛くなってた俺を忙しいのに懸命に支えてくれた。俺は俺で自分も忙しいからって、それに甘えてたんだ!

 だが、だがなぁ、アニエスはもっと辛かったんだよ! もし、それで、辛くさせるような俺から離れられるなら、それはいいじゃないか!」


 ユリナは口を丸くして顎を引いて目を開いている。驚いたようにしながら、息が上がり肩で息をする俺を見つめると、


「おうおう、男前になったなぁ。おばちゃん、感心したぜ。いつまでも厨房こじらせインポ野郎かと思ってたが」


 と何やら感慨深そうに頷いた。


「黙れよ。大事な家族をなくして、平気でいられると思ってんのか? でもな、どうすればいいか、わからないんだよ」


 知った風な態度にますます腹が立った。怒鳴り散らしたおかげか、腹の中で膨れていたものは外に出たようだ。柱を殴ったことを後悔するような冷静さが少し戻っていた。


「そうか、そうか。私も家族をなくすなんてのは死んでも嫌だ。でも」


 ユリナはそう言うと傾けていた椅子を勢いよく戻した。床に椅子の脚が落ちると大きな音がした。


「お前はあの赤髪女が置かれている状況を全く知らない」と前屈みになりテーブルに肘を突いた。


「ただ、ただ、自分の前から自分の意思でいなくなった女をねちねち思い続けてるだけだ。そんなのぁ、哀愁漂う自分に酔ってるだけだぁ」

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