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慟哭の痕 第八話

 アニエスが“レッドヘックス・ジーシャス計画”でマルタンの亡命政府へと行ってから、二週間が経過した。

 シーヴェルニ・ソージヴァルは連盟政府と相変わらずの戦争を続けている。二週間そこらでは大した戦況の変化もない。

 硝石の供給も安定し始め、ルスラニア王国の兵士も共同体正規軍として参加して勢力を増やした。

 戦線はノルデンヴィズから遙かに南下し、サント・プラントンのある教皇領の手前、エーデルアインハッフロイテ領の最大都市のホーンハイムにまでじわじわと迫っていた。

 しかし、首都に近づくにつれて連盟政府の魔法使いたちの攻勢も激しくなり、再び停滞気味である。


 アニエスが突然いなくなったことで俺は取り調べを受けた。山小屋にも捜査が入ったが、アニエスが彼女の杖以外に何一つ持っていかずにマルタンへ行ったことが明らかになっただけだった。

 彼女は地位も人望もあったが北公の機密に関してはあまり重要なことを知らず、どちらかと言えば魔法主義的な傾向があり科学技術的なものに対しては便利さを享受する程度しか知らず、情報流出の可能性は低いと判断された。

 混乱は人事的なものにも起きた。だが、規模としてはシーヴェルニ・ソージヴァルが傾くほどのものではなかった。

 それもセシリアのときと同じで一時的なものだった。

 優秀な人材は替えが利かない。だが、組織は単細胞ではなく多細胞であり、それらと同じで新陳代謝を行う。

 替えが利かないのであれば、方法ややり方などの形を変えてその穴を補うのだ。

 以前の形とは全く違うやり方で組織は維持をするので、替えが利いたとは言わない。だが、結果的に組織全体を俯瞰すれば何も変わらない。

 そして、それは重要なポストに就いていた人間であればあるほど、急速に補われるのだ。


 アニエスは移動魔法を行使する者と魔術指導主任教官としての立場があった。

 いなくなった直後、移動魔法はユカライネン上尉がマジックアイテムを常に持つようになり、その役割を担うことになった。

 北公に留まらずシーヴェルニ・ソージヴァル全域への鉄道網が充実したため、マジックアイテムを使わずにある程度の速さで直接行ける人間は増えたので、ポータルでの移動は要人の護送がたまにある程度で物資の運搬などの大規模なものはほとんど無くなっていた。

 魔術指導主任教官と言う立場はなくなり、雷鳴系や氷雪系、炎熱系、治癒魔法などで各分野ごと細分化され、それぞれに主任教官が就いた。氷雪系にはウトリオ中佐が就いた。

 俺も兵士治癒の業績を認められて治癒魔法の主任教官に推されたが、現場が忙しい為に辞退し、その代わりノウハウを全て主任教官に伝えた。


 セシリアのときも誰も気にとめることはなく、世界は回り続けた。アニエスの時もそうだ。

 変わらないと思っていたらやはり変わらなかった。俺自身もそれを受け容れようとしている。


 誰かがいないという違いを、はっきりと認識しているのは俺だけだった。

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