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慟哭の痕 第七話

 髭面の男は俺と女将を困ったように交互に見ると、鼻からため息を溢し椅子から立ち上がり、女将に連れられてカウンターへとすごすごと戻っていった。


 申し訳なさに飲み込まれてしまい、喧噪から切り取られていたはずのこの場にさえいられなくなってしまった。

 店内にいる他のお客たちはまたしても陽気に歌い出し、髭面の男もどこかの集団に混じり、笑い声の中に消えていった。

 窓際のテーブルに俺は取り残され、そこはまるで別の世界のように切り取られ、外で大きな車が通って照明が揺れれば、時折影が覆った。


 何もかも、まるで自分が聞いている音では無いような、壊れたラジオから混じる音声のように聞こえる。


 陽気なこの場に、どん底にいるような顔をしている俺は邪魔でしかない。俺自身もその音に耐えることが出来なくなっていた。

 パスタとウィスキーをかっ込んだ。

 しかし、パスタはまだ熱く、無理矢理飲み込んだ後の舌の上がざらついたような気がした。

 ウィスキーもかなりの濃いものだった。前回の早雪の時のような薄い消毒液のようなものかと思った喉にはキツい物があった。


 全てをさっさと平らげて、右手を挙げて女将に合図をした。そして、あまり考えずにいくらかのエイン紙幣を置いて店を足早に後にした。


 立て付けが悪く軋むドアを身体を使って押し開けた。

 ドアノブは貼り付くほどに冷たくはない。外に出ても息は白くならない。

 他の店も盛況な様子だ。様々な食べ物の匂いが混じり、どの料理なのか分からない。

 繁華街の匂いといえば聞こえはいいが、今の自分には気持ちの悪い脂ぎった匂いにしか感じない。

 開け放された窓からは他の店の話し声、笑い声、歌、喧嘩の怒号が聞こえてくる。


 早雪で抑圧されていた街は気温が上がると弾けるように騒がしくなった。いつもの初夏よりもそれはそれは騒々しい。

 この世界はどこに行っても騒がしい。耳障りだ。街も森も山も、音に溢れている。


 早くヒミンビョルグの山小屋に戻るしかない。基地に戻り上着を回収してポータルを抜けた。

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