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慟哭の痕 第一話

冬夜の友よ。(エイン・フェンダー・)酒がうまい。(ヴィンタナフト・ゴー)雪が降ろうと(ズィスト・ブート ア)も僕らのノル(フ・エス・シュナイト)デンヴィズ。(・ウンザー・ノルドン)愉快な良い街。(ヴィズ アイナ・アン)愛がないな(グニーム・ウンド・グ)らここへおいで(ータ・シュタット)……”


 ここの常連たちは夏でもこの真冬の歌を歌うようだ。


 何かを求めてここに来て、そしていつかと同じあの窓際の席に一人で座っていた。

 早雪は終わり、天を覆っていた火山ガスは無視できるほどに減った。そして、物流の回復によりノルデンヴィズの街は活気づいていた。

 季節は初夏を迎え、やがて来る季節に浮かれて、それまで抑えつけられていたものが余計に強く解放されたのだろう。

 それは久しぶりに訪れたノルデンヴィズの工芸地区の食堂にも押し寄せていた。


 常連たちの歌声は以前訪れたときよりも高く、そして大きく響き渡っていた。

 ウィスキーを一杯だけ貰った。千鳥足になりながらも肩を組み、耳まで真っ赤の赤ら顔で歌う彼らの様子を見ていたので、シングルにした。


「おう、兄ちゃん。久しぶりだな。真っ赤っかの女の方はどうしたんだい?」


 歌う輪から外れて、いつか女将にナンパしていた髭面が話しかけてきた。彼の身なりは相変わらずだが、どことなく声は高く景気は良いのだろう。

 工芸地区は兵器産業が盛んになったことで活躍の場が広がったのを俺は基地でよく見ていた。

 この髭面の男も、基地の中庭に集められていた職人集団の中に見かけたこともしばしばあった。


 後頭部を掻きながら、「いなくなっちゃいましたよ」とだけ答えた。


 すると、女将が横から、「別の子でもこさえて、不幸にしちまったのかい? それならおまえさんが悪いよ」と言ってウィスキーを出した。

 そして、頼んでもいないのにアニエスが以前食べてきたパスタを突き出してきた。

 できたてのパスタはほわほわとまだ湯気を立てている。

 匂いは相変わらず強いが以前とは違ってベーコンやキノコがたっぷりと入っていて、油も申し分なく使われているのか、パスタは油でつるつるに輝きフォークの隙間で踊って落ちてしまいそうだ。

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