巨塔嗤う 第七話
「そうか。ユニオンと共和国の関係改善を期に難民エルフたちを積極的に受け容れる政策を執ったことが仇になったようだな。
エルフ難民とは具体的に言わなかったが来る者を拒まずという姿勢を示した北公に張り合う為に積極的になりすぎたのだろう。
ユニオン領であるマルタンに難民も多いだろうに」
しかし、全て難民の行動と決めつけることには疑問がある。
レヴィアタンは構成員は全員がエルフの組織だが、果たしてその構成員が難民だけなのだろうか。上質で一揃えの服装など極貧に燻るエルフ系難民では揃えるには厳しいのではないだろうか。
寄せ集めの集団が演出しようとする統一感は、服の色による統一で手っ取り早く。
しかし、服は同じ素材ではなく近い色を用いることしか出来ない。色味だけでなく素材による光の返し具合で見た目に差が出る。それ故のこじつけ具合がかえって非統一感を煽る。
しかし、レヴィアタンの肋骨服は全てが一枚の大きな生地から切り出されたように等しい色と材質で揃えられている。
今はクロエを影の支援者としているが、彼らの活動は支援を受ける前から行われていた。
現在マルタンでクロエにさせていることは、テロリストの焚きつけとその後の支援のみ。
彼らを金銭的に満足させてしまうと混乱を起こさなくなるので、資金的援助は行わずひたすらに物資のみによる支援だ。
それ以前からいる支援者は資金面において余裕があると考えられる。つまり、大きな存在である可能性も否定できない。
新規に合流したテロリストたちには肋骨服を与えておらず、レヴィアタンの掲げる主義主張を真に理解した同志たちのみに与えられるというルールがあるという報告も受けている。
金銭的に余裕が無いからではないく、意思の統率によるものだ。
だが、後から続いたテロリストたちを排除することなく受け容れて等しく活動を行っている。
仲間はずれという反感の種を蒔かず、モスグリーンの肋骨服を着られることが活動家としての至上の名誉であると刷り込み、羨望の対象としているのだろう。
それによる一種異様にも思える一体感。一枚岩以上の岩盤のような組織体制はどこか、共和国のあの組織に似ているような。
マゼルソンを横目で見ると、頤を人差し指と親指で触りながら書類を読み続けている。
クロエに煽れと言っておいて、私がそいつらに懐疑的になっている。
如何なる形であれ混乱状態が維持されていればいいので、最終的に関係ない。
だが、気のせいだろう、とは済ませない。“紅の魔女皇帝計画”の仇になる可能性も捨てきれない。
念のためにも、クロエに今後の接触と報告の機会を今以上に増やすように伝えておこう。
「果たしてどこまでが難民なのやら。
皇帝擁立もそうだが、マルタンが亡命政府に支配されて難民エルフの扱いも悪化したんだろ。
そこへ来て皇帝擁立の噂で起きた混乱がそいつらに火を付けたってワケだろう」
「ユニオンのエルフ難民政策は最近帰化も認められて緩和もされたらしいが、相変わらずなかなかに厳しいからな」




