巨塔嗤う 第四話
マゼルソンの隣の椅子に腰掛けて、足を大きく投げ出して組んだ。しばらく、演習の様子を見ていた。
各種戦闘、特に市街戦を想定した地形や建物を実際に作り上げ、出力を落とした魔法射出式銃を撃ちあわせている。魔法が当たると、服の素材により被弾箇所に色が付くようになっている。
サバゲで言うところのゾンビ行為はすぐにバレる。
違うとすれば、撃たれるとかなり痛いところだ。
痛みの閾値はそれぞれなので、急所を撃たれなければ、五発撃たれるまで戦闘を続けていいというルールを設けている。
一発撃たれれば激痛が走り、ゾンビのような歩みになる。そこを袋叩きにされるので、実際のところ、一発当たれば終わりのようなものだ。
と演習のルール説明はどうでもいい。
実は参加している者たちに貸し出している魔法射出式銃は予め出力を小さくしただけのものであり、リミッターがつけられていない。制限されているのが普通であると思っている参加者たちがどこでそれに気がつくか。
そして、その事実を知っている将校たちはどのように動くか。
ハイリスクなことは承知の上だ。だが、私の計画にはそれが必要なのだ。
「実弾を使わせたのは、連携の取りづらい軍と市中警備隊の間で生ずる混乱に紛れて射殺でもするのかね?」
マゼルソンも出力についての事実を当然ながら知っている。私が企んでいることを探るかのようなことを尋ねてきた。
「そんなことはしない」
「貴様ならやりかねんと思ったが」
私はハッハッハと浅い笑いを浮かべた。今するのは笑うだけだ。その意味をこの老人が知るのはもう少し後だ。
マゼルソンは私の作り笑顔をいぶかしげに見つめた。どうやら私の笑顔は作りすぎていて、目が笑っていなかったようだ。
「なに考えてやがるってツラをしてやがるな」
「何を考えているかなどどうでもいい。だが、世の中を混乱させるだけではいい結果を得られないぞ」
マゼルソンは再び演習場を見た。遠くで煙が上がると、笛の音が聞こえた。どこかの班が派手に負けたようだ。
「本気のマジでやっちまってるなぁ。衛生兵を向かわせろ」と櫓の隅で気配を消していたフラメッシュに指示を出した。彼女は敬礼をして櫓を降りていった。
階段を駆け下りていく音が聞こえなくなると「妙に連携のとれている班もあるようだな」とマゼルソンはちらりと後ろを振り返った。櫓には私とマゼルソンだけになっていた。
「ところで混乱といえば、マルタンでテロリストが暴れているらしい。“不顕皇手”と名乗っているらしい。構成人員は全員エルフだそうだ。そちらの対策はどうかな?」




