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巨塔嗤う 第三話

「ルシールはフランス人だったな。モルティエ大通り一四一の貴婦人を愛したあんたも、その意味をご存じか。

 シャンソン人形は異世界の夢を見るのか。ピロートークは“例の本”。憎悪は二分では終わらない」


「下品なのは変わらないな。金融省長官は前任のアルゼン然り早く老けるのが有名だが、彼の場合は君が原因だな。搾り取られて枯れてしまう」


「下品はどっちだ、スケベジジイ。

 そりゃ置いといて、帝政末期の時代の帝政思想(ルアニサム)のほうがよっぽど支配者階級の権利の半永久的維持を目的として動いてただろ。

 上司が自分の保身と昇進のことしか考えなくなる世の中ほど、平和な世の中はないと思うがな。

 ところで、爺さん、あんた兼任してから老けたんじゃねぇのか? 最近は下ネタにキレもねぇし、仕事だけじゃなくて皺も増えたみたいだぜ?」


 そう言いながら、私は眉間の辺りを人差し指でつついて見せた。

 マゼルソンは振り向かず、喉を鳴らすだけで頷いた。再び話をしていた軍人と警備隊員の方へ顔を向けた。


「無知故に陰謀に脳を焼かれた者たちの末路、か。

 少なくとも私は末期の帝政思想(ルアニサム)ではないし、私の目がくらむほどのカネがこの国の国家予算如きでまかなえるわけもなかろう。

 現政権である共和制と敵対した記憶は無い」


 こりゃ強気な爺さんだ。思わず口をヒューっと鳴らしてしまった。

 マゼルソン家は古代から長く続く、由緒正しきお家柄なだけある。あの家にある歴史的価値の計り知れないものを全て売り払えば、国民一人に一機の飛行機を与えてもおつりが来るだろう。

 その金額を集めるために国中のカネを集めたとしても不可能だが。

 まったく、金持ちはイヤミなモンだぜ。


「あくまで敵対はしていない、ってだけだよなぁ。じゃ共和制の申し子のような私と仲悪そうな雰囲気だそうか?」


 ニヤニヤ笑いながら尋ねると「これから殴り合いでもするのかね?」と言うと口角を上げ始めた。そして、「パフォーマンスなど必要ない。もとより円満ではないと思うが?」と私を見てきた。

 表情には自信が溢れていた。実際に殴り合いをすれば私が勝つのは分かる。だが、負けるはずなどないような挑戦者の笑みを浮かべていたのだ。

 この爺さんはただ者ではない。その弱いと非力さからは考えられないほどの覇気に少しばかり圧倒され、「それもそうだな」と小刻みに頷きながら答えるだけにした。

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