巨塔嗤う 第一話
市中警備隊と共和国軍グラントルア本司令部軍の合同実弾訓練が実施された。
長期にわたる訓練であり、これから二週間ほどの日程で継続される。
実弾演習というより実戦に近い形式の演習が行われたのは、和平交渉により人類とエルフが接近したが、皮肉にも両国の緊張感を高めることになったからだ。
合同訓練は本来は西方司令部との予定だったが、アカアカ・カルデラの噴火により西方司令部は災害復旧に専念することになった。
というのがメディアには発表されている。
噴火は少々予想外ではあった。予兆はいくつもあったので近々噴火するだろうがまだ、という程度だった認識のところに大噴火を起こした。
メレデントのお膝元である西方の軍司令部内部にいる帝政思想の摘発をこの演習中のドサクサにかこつけて行うつもりだったが、噴火により本司令部との演習に差し替わったので予定を変更した。
自分の足下をまず片付けろということなのだろう。
災害復旧支援と称して北部司令部の軍人たちを支援に向かわせた。噴火での現地住民の被害は事前の避難等により抑えられたが、北部の軍人たちが多く行方不明になっている。
しかし、現在ではその噴火も落ち着きを見せている。
演習場を見渡せる櫓の柵から身を乗り出し、眩しい陽射しを右手で遮り、遠くの景色と空を見た。
火山灰はもうどこかへ消えたように青い空が広がっている。グラントルアの街並み、丘陵地帯の青々として夏山、そしてさらに遠くには高い雲が立ちこめているのが見える。やがて大雨を連れてくるだろう。
「残党狩りは順調かね、軍部省長官殿」
背後から年老いた男性のかれた声が聞こえたので振り返った。マゼルソン法律省・政省兼任長官だ。
何を話していても裏があり、さらにこちらを絶えず探るような目つきは相変わらずだ。
「お陰様で。実弾持たせると気合いが入ってるな。わかりやすくギラついてやがるぜ。
私の寝首を掻こうとしてるんだろうな。この演習の為にわざわざ他の地域から異動を願い出てきた兵士もいるくらいには盛況だぜ」
「殊勝な兵士もいるものだ。その情熱を他に向けて欲しいな。ところで、私は皇帝の支持者であることは知っているな」
帝政ではなく、皇帝の支持者であることもな。
「馬鹿にはっきり言うじゃねぇか。ここで私を拳銃で撃つのか?」




