囚われに羊飼いは西へ 最終話
白面布を取り上げると、束ねられていた長い髪を散らすように首を回した。
広がる前髪は一部が白くなっていた。私はそれをよく知っている。紛うことなき彼女と彼女の一族の象徴とも言える白い髪だ。
「ポルッカ・ラーヌヤルヴィ。なぜ私のペンを持ってきたのですか?」
「ご託は必要か? 出るぞ」
しかし、異変は既に察知されていた。魔法が壁に当たったのを検知したのだろう。
ラビノビッツと同じ格好の者たちがどやどやと白亜牢の中へと押し入り、ラビノビッツの亡骸を見るや否や杖を向けて来たのだ。
「包囲されている。抵抗は無駄だ」
するとポルッカは突然「レアは錯乱状態だ! 私は裏切り者を捕らえようとしたら魔法をかけられて動けなくされている!」と悲痛な声を上げた。
「ポルッカ、あなたはやはりそちら側ですか!」
私は咄嗟にポルッカの首に飛びつくように巻き付き、首筋にケーリュケイオンを突きつけた。
「人質に取られたが構わん。まとめて始末しろ!」
「撃たないでくれ! 頼む! 死にたくない! 私はヴァーリの使徒! 戦いの場に命を捧げたいんだ! こんなワケの分からない、サント・プラントンの旧王城地下五階の奥にある牢獄などでなんか死にたくない!」
そういうことか!
ポルッカの言葉の意味を唐突に理解した。その瞬間、回路がつながるような感覚が頭に走った。
クソのような三文芝居ですね。おっと、口が悪い。ユリナさんが移ったのかしら。
しかし、ここが本当にサント・プラントンの地下なのかは分からない。
旧王城の地下には何度も行ったことがあるが、このような空間は知らない。
私がここに運び込まれたときは目隠しをされていた。しかし、おそらくだが、そのとき誰かの移動魔法を使って放り込まれたわけでは無い。
移動魔法を使ったときに起こる独特の耳や身体などに与える気圧や温度の急激な変化は感じなかったからだ。
それはつまり、自分の足で直接向かったと考えることも出来る。
ならばもし、ポルッカの言葉が本当であれば、何事もなく移動魔法が使える。
嘘だとすれば、私諸共ポータルに飛び込んでしまえば今度こそ本当の悲鳴を上げるだろう。私もタダでは済まないが。
悩んでいる暇はない。私は一か八かも考えずに咄嗟に移動魔法を唱え、ポルッカの足下にポータルを開き、そこへ私も飛び込んだ。




