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囚われに羊飼いは西へ 第九話

「仰るとおり、確かに、金融協会と険悪になるという些かの懸念があります。ですが、懸念は懸念。

 グルヴェイグ指令とは、シグルズ指令が連盟政府の権力独占の抑止力であったように、協会による権力独占の傾向が見られた場合に発動されるです。

 三機関の暴走を止める為に必要なもの。必要不可欠なもの。全てを我々が丸く収め協会が頭を冷やして反省すれば自ずと指令の意味意義を理解出来るでしょう。

 しかし、そうなるのは協会に指令とその実行が漏れてしまった場合の話。そもそも漏れることなど有り得ないのです。

 シグルズ指令と違うのは、グルヴェイグ指令は古くからある協会を押さえ込む為に長年にわたり改良を繰り返されたもの。

 まぁ、古いと言っても、一族が神話の代から続いてる程度であり、我々商会は一族そのものが神話なので比にもなりませんが。

 今回のような事態が発生した場合、もしくはその傾向が見られた場合を想定した対策は、長い年月話し合われ、時代の変遷と共に改良を繰り返しし続けたために、極めて綿密で巧妙に錬られています。それこそ、神話の時代から、ですね。

 そして、指令は一度完了してまえばその存在は闇に葬り去られ、ありとあらゆる資料は灰の粉となり、如何なる形においても後世に伝えられることなく未来永劫内容が明らかにされることは無いのです。

 どこかのならず者たちが私利私欲の為に行った組織的犯罪であり、協会は一時的に混乱したが他の組織と力を合わせ解決した、と言う歴史的事件の一つとして記録されるだけでしょう。

 犯罪者と呼ぶには相応しい者たちが昨今急増したので、ならず者を誰にするかなど我々次第なのです。

 終わってしまえば実際に起きたことを知る者がどれほど歴史的事実を喚こうと、ただの陰謀論で片付けることができます。

 歴史というのは学術的に立証されたものとしばしば思われがちです。しかし、結局は多数派と権力者の総意でしかありません。

 多数派と権力者がそうだと言ったから、どれが本当にあった歴史的事実かではなく、それが世界にとっての真実なのです」


 ラビノビッツはまた心なく微笑んできた。その顔は如何なる時も同じ所に同じ深さの皺が入り不気味だ。

 これまで何度も同じ無味な微笑みを繰り返し浮かべてきたのだろう。まるで微笑み人形のようだ。


 独立した国家のどこかが起こしたことにしようというのか。他国の、特に協会と相容れなくなった北公の責任にでもするつもりなのだろう。

 商会が悪い、協会が悪い、それ以外の誰かが悪いと言う話では無く、未来永劫に続く経済的混乱についてを考慮していない。

 三機関の柱の一つである連盟政府が完全に信頼を無くしてしまう。彼らが覇権を失うと同時に、覇者を選び育ててきた商会も協会も崩壊しかねない。

 グルヴェイグ指令で行われることで用いられるものは三機関全てに密接に関係しているので、連盟政府が勝手に崩れて行ったと言う風にはまとめられない。

 そうなってしまっては覇者どうのと言う話では済まされないのだ。


「確かに、指令により次世代の覇者の育成の為の時間稼ぎは出来るかもしれません。

 協会もユニオンという足がかりが不安定になったことで覇権獲得から手を引く可能性もあります。

 ですが、それでも私はサインをしません」


「何故です?」

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