囚われに羊飼いは西へ 第八話
「当たり前でしょう。
共和国の規模を考えれば、カルデロン商圏の共和国への拡大とそれに伴う協会の金融市場の拡張は果てしないものになります。
カルデロンの規模も元々小さくはないですが、協会における連盟政府での規模はさらに大きい。北部辺境地域が抜けたくらいでは何ともない。
協会が共和国の金融市場に加われば、商会と肩を並べて大きかった協会が他の追随を許さないほど大きくなると言うことです。
カルデロンも同等の商圏拡大して商会さえも越えますが、元の大きさで既に差が開いていて敵いません。
二組織は共和国での事業を進める上では新参者。等しい立場として組むでしょうが、スタート地点で規模に勝る協会の方が圧倒的に優位。協会が覇権をとるというのは確実です。
大きな組織同士が合わさったそれは内部に優劣を抱えていようとも超巨大な一つの組織。覇権という言葉すら前時代にするほどの大きな柱になります。
それが天を支えるというのは悪くない話だと私は考えます」
ラビノビッツの態度が気に入らずに早口で、まくし立てるようになってしまった。
だが、ラビノビッツは相変わらずだ。じっくりと傾聴していることを示すようなこれ見よがしの態度のまま話を聞き、「さすがですね。ただの隔世フェリタロッサ系統血という、無比のアドバンテージだけでのしあがったわけではありませんね」と目をつぶりゆっくりと頷いた。
そして、鼻から息を吸い込むと目を開けて諭すような態度で話を続けた。
「ですが、やはり覇権はコントロールしやすい個人に持たせるべきです。
覇権とは覇者の持つ権利、つまり個人が持つものあり、三機関としての我々に名を連ねている政府は覇者によって作られた政府そのもの。
そして、現在の覇権の政府は連盟政府であり、そこには覇者と呼ばれる王や皇帝と言った代表者は存在しない。覇者なき覇権を持つ連盟政府とは我々の作り上げた張りぼてなのです。
つまり、三機関と銘打ってはいますが、事実上主体となっているのは協会や商会です。
その我々のどちらかが覇権を持つというのは、権力の集中を促し長期的に見れば独裁的になります。流動的で自由な商売を行う事への支障が出ます。
商売物流と金融経済という文明に不可欠なものを管理する我々は権力者として表に立つよりも、その庇護者としての立場を全うするべきです。
我々二組織は、覇者の親のような立場でなければいけないのです」
「つまり、私たち商会と協会は長い年月をかけて、狭い人間世界を御する為に連盟政府という頂点が空白であり、物事の進退は合議で決めていることが正統であるかのように見える組織を作り上げてきたと言うことなのですね。
なんと傲慢な。ですが、私はそれが悪いとは言いません。正しく機能するのであらば歓迎します。
ところで、その足並みを揃えてきたという協会との関係性はどうなるのですか? その傲慢な保護者たちはグルヴェイグ指令によって別れようとしてるではありませんか。
今でこそシグルズ指令でつかず離れずですが、私たち商会が覇権獲得を阻止したと分かれば関係は悪化します。
二大柱のそりが合わなくなるのは人類圏の政治的、経済的危機をもたらしやがては文明の崩壊を招くのではないですか?」




