囚われに羊飼いは西へ 第五話
「色々と気になることもおありでしょう。質問には全てお答え致します。こちらからあなたに問うことは一つだけです。ご安心ください」
「では、世界は今どうなっていますか?」
ざっくりと質問をした。今の世界はあちこちで色々なことが起こっている。この者たちがこの場で掻い摘まんで話す内容は、その中でこの者たちが一番気にかけている内容でもあるはずだ。
「ビラ・ホラは到達後、北公により占拠されました。その後、ルスラニア王国が宣言され、ビラ・ホラは北公によって硝石採掘場とされました」
「北公の独立戦争は終わりましたか?」
「いいえ、継続しています。ほぼ互角で停滞気味ですね。
シャーローンによる戦況分析では北公が明らかに有利と報告されていますが、彼らは戦争以外の事業を多く抱えているので。今後も長期に継続が予想される実に望ましい状況です」
何が“望ましい”ですか。長引けば長引くほどたくさん壊してたくさん買う。それしか考えていない。
「……アスプルンド零年式二十二口径雷管式銃はどこへ行きましたか?」
「ご安心ください。我々商会が手に入れた物は適正の価格で希望者に売られました。連盟政府の方です」
誰が買ったのだ。いや、そんなものは愚問だ。最悪だ。これ以上ないほどに最悪な選択肢を選ばれた。
連盟政府側のどこの誰が買ったから最悪などではない。連盟政府側に渡ったこと自体が最悪なのだ。
私は眉が寄る不快感がたまらずに、額を弄ってしまった。
それを見たラビノビッツは私の表情を伺うように両眉を上げたあと、にっこりと微笑んできた。
「ご安心ください。リバースエンジニアリング出来ずに壊してしまうような方には売っておりません。
売買は入札で行わうわけにはいきませんでした。高い金額を出せば誰でも買えるというのは我々商会の都合には合いません。
ですが、都合が合うからと言って安価で売るというのも商会としては受け容れがたいものでした。
そこで表向きは入札として希望者を募り、希望者たちの技術力を審査した後に適正と判断された者と個別に連絡を取りました。
入札時に圧倒的な高額を提示して落札した場合、その提示額に応じた割合の金額を返還すると適性者にのみ伝えました。累進的に返還額が変わるということです。
最終的に適性者は三名おり、多くいる希望者の中で事実上その三名だけで入札を競わせました。
結果的に、北公には劣りますが技術力も高くなおかつ他領に売る際は我々商会が販路を独占できることを確約できる、然るべき領主に高額で売ることが出来ました。
銃の技術的盗用には時間を要するでしょうが、世界情勢のおかげで必死です。おそらく今後、早くて二ヶ月以内に、本番が実証試験という形で使用が開始されることになります。
実際にどうかは判断しかねますが、進捗状況は順調という報告も受けています。
北公が戦争に本腰になったとしても、その頃には連盟政府内部でも一般的に使用されるようになるため、より望ましい状況になると言えるでしょう」
完全に談合ではないか。その点が最悪なのではない。出来るものなら壊してしまうような領に売られて欲しかった。これでイズミさんの目的はまたしても遠ざかる。
何か対策を取らなければ。だが、ここに閉じ込められていては何も出来ない。
アスプルンド零年式二十二口径雷管式銃については、私の最悪な状況になっているのは分かった。
そして、もう一つの懸念材料について尋ねることにした。




