囚われに羊飼いは西へ 第二話
何故このようなことになったのか。
私は先のアスプルンド零年式二十二口径雷管式銃の取引において、自身の判断で共和国の取引を受けてしまったことで処分を受けたのだ。
ビラ・ホラ到達目前で失神させられたシバサキをブリーリゾンまで運び、聖なる虹の橋に引き渡し、本部への報告と同時にここへ閉じ込められてしまった。
した事への罰として、謹慎という単なる業務停止ではなく、商会の手によって厳重に監禁されるというのは処分としては重すぎるとは思っていない。
私がしたことを考えれば、内情を知る者であれば誰しもその行為は商会に危機を招きかねないと言う結論に行き当たるのは至極当然だ。
だが、もし私が動かなければそこで起きた危機以上の、商会の存亡に関わる規模の問題が起きていたはずだ。
ここで商会が私を監禁し毎食バランスのとれた食事を提供していることから、商会はまだ潰えていないことは分かる。
しかし、その問題を実際に回避できたわけではない。
取引が成立、完了していれば商会の破滅回避という結果を導けたが、破滅を回避しようとしていた私自身が途中で囚われてしまったことで破滅が先延ばしになっただけで事態は今も動いている。
あれからどうなったのか。商人として情報が手に入らないのは致命的だ。
余暇のために与えられた本がいくつあろうと、食事がバランス良く提供されようとも、部屋がどれほど清潔に維持されていても、プライバシーが守られていても、私の精神を一番に蝕んでいるのは外界からの隔絶による情報の遮断なのだ。
キューディラや移動魔法という伝達によるタイムラグや齟齬を発生させない連絡手段がある世界で、最新の情報が手に入らない。これがどれほど恐怖か。
季節はもう夏のはず。ここは常に適温でどれほど外が寒かろうと暑かろうとレオミュール度で18度に設定されている。
季節ごとに変わる体内の閾値が無視されるように適切で、どれほど頭で数えようとも時間の流れを奪おうとしてくる。
ブルゼイ族はどうなったのか。イズミさんは無事なのか。硝石はどうなったのか。
様々なことに頭を押しつぶされそうになる。
その中でも、思い出すだけでことさらに心臓が押しつぶされそうなことがある。
私はアスプルンド零年式二十二口径雷管式銃を共和国へ渡すことが出来なかったのだ。
私はそれを自分自身が手元に持っている風を装いながらも、安全の為にポルッカに持たせていた。彼女が共和国に渡しているだろうか。
しかし、彼女は北公の人間でもある。北公の技術を共和国へ渡すときに、自らの故郷を売るような気持ちが蘇り渡し渋るのではないだろうか。
彼女はスヴェンニーでありながらかつての内乱で商会に協力した裏切り者一族であるが、性格はいわゆる頑固で身内に甘い典型的なスヴェンニーだ。
ヴァーリの使徒と言う組織名も、同族を捨てきれないラーヌヤルヴィ一族を従順にさせるために付けたのだ。
今となってはそれも過去の話。スヴェンニーに肩入れをして渡さないという可能性もある。
取引相手となった共和国に渡さないというのは問題ではあるが、共和国に限らずどこにも渡さないという選択肢を選んでくれていればいい。
ユリナさんは怒るが、銃を増やさないという目的は果たせる。
どうなっているのだろうか。




