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ギンセンカの根は深く 第六話

「カミーユ、君が東の果ての片田舎で黄金捜索に行っている間に世間では何があったか、知っているかね?」


「ユニオンとの関係がかなり前進したと伺っています」


「そうだな。その次の段階があるのだ。実は、君を黄金捜索に行かせたのはただの人質になってもらうだけではない。情報の流出を遅らせる為だ」


「何か重大な機密を私が流出させたのでしょうか?」


「君はトバイアス・ザカライア商会のレア・ベッテルハイムという商人と友人だな」


 イズミたちとの行動機会が減り、なおかつ所属する組織の勢力関係の変化でレアとは疎遠になりつつある。だが、北公では私を助ける手助けをしてくれた。

 商人であり利益を重視するので私など利用価値がなければ切られてしまっていただろう。しかし、彼女に限っては商人らしからぬ何かがあるのを知っている。

 だから、私は何があろうとも仲間だとは思っている。


 すかさず、ええ、と何も考えずに頷くと、父上は目を合わせてきた。


「娘の交友関係に口を出すのは差し出がましい親だと思うかね?

 家柄で自らを囲う者を選ぶのは当然である。そして、仕事柄でも選ぶ必要はある。

 君と彼女の間でしばしばこちらの情報流出が起きていた。それは些細なものばかりではあったが、無視できないものであった。

 今後、その些細で済ませていたものが重大な漏洩をもたらす可能性もある」


 仲間を馬鹿にされたような気がして「それはつまり、レアが“悪い虫”だとでも仰るのですか?」と抑えながらも強く言い返してしまった。

 それに父上は眉を上げて「いや、そうではない」と首を左右に振った。


「彼女はベッテルハイム・ハンドラーから続く正統な血筋にして、隔世フェリタロッサ系統血だ。共和国ではルーア・バリアントと言うらしいな。

 商会のエリートの中でも選ばれし者と言っても差し支えなく、むしろ今以上に積極的に交友関係を持つべきだ。

 それから今彼女は。ああ、いや」


 父上は一度言葉を詰まらせて止めた。すぐに取り繕うように咳払いをすると「君にはすべきことがあるな。これはいいだろう」と話を続けた。


「事実、君がもたらす商会独自の情報もゼロでは無かった。

 だが、現在我々協会が進行中の事業に関して、は出来る限り商会には嗅ぎ付かれて欲しくなかったのだ」


「何をするつもりなのですか?」


 三機関である協会と商会は互いに独立している。近すぎない距離を保てたおかげで表向きの顔では険悪では無い。だが、その実体は互いの情報の探り合いが熾烈に行われている。

 父上の話では、探り合いの中における私とレアの関係も重要なパイプの一つなのだろう。

 友人関係というのは表に出るものだ。つまり、断たれれば断たれるほど繋がりを狭めたことが目立つ。

 それを断ってまで秘密にしたいというのはどういう規模の事業なのだろうか。


 尋ねてはみたが、父上は何も言おうとはしなかった。やはり簡単に言えるようなものではないのだろう。


 だが、父上は沈黙の後、

「やれやれ、何も知らずに左遷されて現地で話を聞いてくれた方が、多少娘に嫌われようとも父親としては安心だったが」

 とぼやいたあとに

「左遷を受け容れるというなら……。いや、伝えて差し支えないだろう。もう子どもではないし、身体も強いのだ。それに、聞けば必ず君は承諾するからな」と言って椅子に座り直し、テーブルに肘を突いた。


 雲に遮られていた日光が合間から差し込み、大きな窓ガラスいっぱいに差し込むと白一色の部屋がくらむほどに眩しくなった。


 眩んだ視界の中で父上は見せつけ勿体ぶるに緩慢な動作をして顔を上げると、


「我々は共和国の金融市場にも進出する」


 と低い声で言った。

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