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ギンセンカの根は深く 第五話

「なっ!? 無理です!

 下っ端の仕事について成果成績以外のことなど知らないのは理解出来ます。

 ですが、あまりにも短すぎです! 今していることの引き継ぎをしなければいけません。せめて三ヶ月はいただかないと!」


「三ヶ月?」と言うと椅子を回してこちらを見た。椅子を回す勢いは早く、片眉を上げまるで何かを咎めるような視線を投げかけている。


「三ヶ月か。一年の四分の一。かのルスラニア王国はサポートはあったにしろ三ヶ月もかからずに成立した。

 だが、あちらの三ヶ月とこちらの三ヶ月はワケが違う。

 さらに言えば、三ヶ月はエルフたちの半年に相当する。我々人間は彼らほど長生きでは無い。

 彼らが半年ですることを我々は三ヶ月でしなければ置いていかれる。そして、彼らは三ヶ月で我々での半年以上の進歩を見せている。

 アキレスと亀どころではなく、我々は百ヤード先のアキレスを追いかける亀だ。

 たかだか引き継ぎにそのように時間を掛けて良いと思っているのかね?」


 父上は机の引き出しを開け、中から書類の束を取り出した。そして、私の方へ向けると掌で押してきた。

 私が書類と父上の顔を交互に見ると、父上は右掌を見せ読むように促してきた。

 小さく頭を下げて机に近づきそれを持ち上げると、表紙には“マルタン戦線における試算”と短く書かれていた。

 今現在注視すべきはマルタン戦線ではなく、連盟政府とシーヴェルニ・ソージヴァルで行われている戦線が悪化している広域戦闘では無いのだろうか。

 疑問に思いつつも、表紙を捲り一ページ目を読み始めた。


「協会のシンクタンクによる調査の結果は、何もしなければ二ヶ月後には戦争が終わると示している。それもユニオンが壊滅的敗北を喫するという結果でな」


 読み始めたが中身を把握できる程度に読むよりも先に予想だにしない言葉が飛んできたので手が止まり、顔を上げて父上を見つめてしまった。


「実は、こうしてのんびり親子の会話を楽しんでいる時間も実は勿体ない。我々は緩やかなようで、今かなり逼迫している」


 父上はそう言って書類を読むのを促してきた。


「引き継ぎは大事な話です。協会業務にも影響が出ますよ。私の左遷とユニオンの敗北にどのような関係があるのですか?」


「頭が硬いのは母親譲りだな。見目麗しさだけではなく、中身も似るとは。

 父親としては喜ばしいが、経営者としては私のようなフレキシブルさを持ち合わせて貰いたかったのものだ」


 時間が無いと言った割りに、会話の途中でこのように小言を挟んでくるのは昔からだ。

 小言も自信に満ちあふれていて、自分が偉大であることを当たり前であり、尚且つ娘の私にはその人物の家族であることを誇れというような言い方だ。

 確かに立派であり、誇らしくないかと言えばそうでは無い。だが、本題が見えにくくなるのだ。

 私は何も言わずに父上の言葉を待った。反応せずとも、父上は私がそうですなどといわないのも分かっている。

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