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ギンセンカの根は深く 第四話

「簡単に失態とまとめないでください!

 それだけではありません。イングマールやシュテッヒャーを始めとした北部支部管轄地域離反の情報は事前に掴んでいました!

 ですが、それを伝える前に拘束されてしまったのです。協会本部が協力者として推薦してきたムーバリが裏切り者のさらに裏切り者だとは知らなかったのです。

 そのような人物を推薦した本部にも問題があると私は考えます!」


「だが、君は相手が何者か吟味せずに信用した挙げ句、捕まってしまった。

 当該人物がより中心に近い人物であると判断し、そのような立場の者と接点を持ったという自覚のもとに、慎重に行動するべきだった。

 さらには複雑な立場にあるティルナ・カルデロンを動かすことになったと」


 父上はこれまでよりも声のトーンを落とし語気を強めた。

 確かに、ムーバリを無警戒に信用した私にも問題が無いと言い切れない。

「それは――」と私が反論しようとしたが言葉に詰まってしまった。

 父上は私が何も言えなくなるのを見ると、再び窓の外へと向き直った。


「彼女は優しい。兄上を亡くされて以降、性格は鋭くはなったものの、先輩であり唯一無二の親友であるカミーユ、我が娘を救出に向かってくれた。

 自分の立場を分かっていながらリスクのある行動に出た事から分かるように、以前のような引っ込み思案ではなくなり、かつての協会の英雄のマリソルを彷彿させるようになった。

 近親者の死も無駄ではなかったようだな。

 さらに彼女がカルデロンの会長に就任したことで、企業体質もだいぶオープンなものになった。それはユニオン独立により諜報部の運営がカルデロンから国家に移ったからと言えよう」


 なぜ父上はティルナの現状にやたら詳しいのか。

 それはともかく、あの子が強くなれた理由は兄の死だけではない。人の死でしか強くなれないというなら、私はあの子は弱いままでいて欲しかった。


「彼女が我が娘を救い出してくれたことには大いに感謝する。だが、それは父親としてだ。

 ひとまず彼女の話は今は置いておこう。そして、黄金捜索はどうだったかね?

 メンツ立てのための人質としていっただけで、暴れるだけ暴れて何の成果も無しにすごすごと帰ってきたではないか」


「行けばいいだけではないというのは理解していました。しかし、黄金も元々無いと知ったのはだいぶ後でした!」


「101部門は協会の安全と秩序を守る組織。情報が物を言うのに、その情報を積極的に仕入れようとはしていなかったではないか」


「ですが!」と弁明を試みたが「何かあるのかね?」と遮られた。


「繰り返すが、失態は失態だ」


 ついに何も言えなくなった。父上の私を左遷させるという意思は、どれほど反論しようとも変わらないようだ。こうなってしまってはどうしようもない。


「……かしこまりました。いつからでしょうか?」


「今すぐだ」と父上は間髪入れずに即答したのだ。続けて、「この部屋を出たら、真っ直ぐユニオンに向かいなさい」と言った。

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