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彼女が選んだもの 第二十三話

 それから、その夜はろくに会話も出来ずに眠ってしまった。ベッドでは背中を向けて冷たく眠った。

 こっちを向いて欲しかったが、それはしないだろうというのも分かっていた。

 俺が素直に謝れないというだけではなく、謝れば許して貰えるような問題では無いと言うのも分かっていた。


 夜が明けたら、朝一で挨拶よりも先にきちんと謝ろう。

 そして、全てを話してしまおう。俺はその上でアニエスには絶対に行かせないという意思をきっちりと伝えよう。


 疲れていたので眠りに落ちるのはあっという間だった。


 毎度のように何度か目を覚ましてては眠りに落ちてを繰り返した後に迎えた明くる朝、アニエスは何事もなかったように朝食を用意してくれた。

 昨夜のような怒りや悲しみ、孤独を顔に出すこともなく、美味しい目玉焼きとカリカリのベーコンを焼いてくれた。


 そして、彼女は教官としての仕事をするべく基地へと向かっていった。俺は俺で兵士たちの治療へと向かった。


 朝はお互いに早く忙しかったので、俺はごめんの一言も言えずに終わった。起き抜けのアニエスがいつも通りだったことに甘えていたところもある。


 俺やアニエスは移動魔法という特殊な力があるので特別扱いされており、兵士たちのように前線に送られずに平凡という優雅な生活を過ごせていることに感謝しながら、お互いにお互いの成すべきことをして一日を過ごした。


 一日が終わり、基地から戻ろうとするとアニエスともタイミングが重なった。前日と同じように食堂で食事を受け取り、二人で山小屋に戻り食べることにした。


 いつも通りの人の少ない深夜の食堂で何があるかを尋ねると、エープルフラシュクとエゲケーが残っていたので、それで簡単に夕食を済ませることにした。

 エープルフラシュクはしっかりと焼かれた豚バラ肉とリンゴのソテーはほんのりリンゴの甘い匂いがするかりかりによく焼いかれたベーコンだ。

 エゲケーはトマト、タマネギ、それからニシンの入ったエッグケーキだ。アクセントに乗っているバジルとトマトの色がとても美味しそうだった。

 どちらもフェストランド領の海沿い一帯をしめるフィヨルドよりも少し南の地方の料理らしい。


 珍しい料理らしく、アニエスも食べたことが無かったようだ。疲れた様子だったが、食卓につきかりかりになったベーコンを頬張ると美味しそうに息を漏らしていた。

 その姿を見ていた俺は、このまま謝らなくても許してくれるのではないだろうか、もうクロエと話したことさえもなかったことにして、再びいつも通りに戻れるのでは無いだろうか、そう思ってしまった。

 そして、話そうというタイミングも意思も、どこかへ行ってしまうのを感じた。

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