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彼女が選んだもの 第二十二話

「どういう関係なんですか?」


「アニエス、聞いてくれ。そう言うんじゃないんだよ」


 今彼女に愛していると言っても、まるで言い訳のようにしか聞こえない。

 話を丸く収めるためにとりあえず言ったという、味も色も真心も、何もない便利な言葉にしか聞こえないだろう。


「他に何があるって言うんですか!? もう黄金捜索も終わって関係ないはずです! あの女とどういう関係なんですか?」


 クロエと俺の関係を勘違いしている。

 俺はそんなつもりはない。はっきり言ってしまえば良いのだ。情報交換の為の繋がりでしかないことを。

 しかし、感情的になってしまったアニエスはもう止められない。どんな情報を交換したのかと尋ねてくる。そして、それを言うまで彼女は止まることはない。

 そうなってしまえば、レッドヘックス・ジーシャス計画のことを言わなければいけないのだ。

 俺はそれはどうしてもさけなければいけない。

 アニエスを巻き込みたくない。彼女自身の為ではなく、何かに対する責任でもなく、他でもない自分自身の為に。


 何も言えずに視線を泳がせていると、「そんなの分かってる!」と声を荒げた。

 彼女は続けざまに「あなたはまたそうやって、一人で何でも決めて」と言った。


 分かってくれたことに俺は安心してしまった。じゃあ、気にしないでくれ、と言おうとするまもなく、アニエスは声を上げ続けた。


「いつもそうだった! あなたは何かするときは全部自分で決めて、私に何か聞くときは助言なんかちっとも求めてなかった! そのたびに寂しかった!」


 目の前まで迫ってくると拳を握り、両手で胸板を叩いてきた。二、三度少し強めに叩いてきたあとに、服を掴むと上目遣いになり、


「わ、私、また一人にされるんですか? 何の相談もなく、あなたの抱え込んだことに何も言えずに。そんなの、もう、嫌なんです……」


 と言ったのだ。

 アニエスの目には涙が光っていた。言葉にしなくても分かるほどに表情は憔悴しきっていて、孤独に追いやられているのが浮かび上がっている。

 アニエスは両親が行方不明だ。生きていることだけは分かっているが、会うことは出来ない。それがどれだけ負担になっていたのだろうか。

 押しつぶされるような孤独を隠して、俺には笑顔を振りまいて、軍での仕事をこなし続けていたのだ。


 それにもついに限界が来てしまったようだ。


 セシリアがいなくなって不安定になっていたのは俺だけではなかったのだ。それどころか、アニエスの方がよほど不安定になっていることに今さら気がついた。


 胸の中にしがみつくようになっているアニエスの肩に手を回した。そして、抱きしめるようにした。

 アニエスは俺よりも少しだけ背が高い。それなのに、どうしてこんなに小さな女性を抱きしめているような感覚になるのだろうか。


 すると「ごめんなさい」と呟くような声がした。

 また俺はアニエスに謝らせたのだ。一方の俺は、謝ることが出来ないのだ。

 素直になれないだけでなく、伝えていないことがあるからだ。そして、それをアニエスには伝えずに俺だけの中で解決してしまおうと意地になっているのだ。

 誤魔化すように、強く抱きしめた。

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