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彼女が選んだもの 第十話

 話したいことが何なのか、さっぱり見当が付かない。一つ分かるのはそれが機密事項であることだ。

 だが、もったいつけるようなその言い方が少しばかり億劫に感じて「何だよ、それは?」といい加減に尋ね返した。


 レッドヘックスと言えば、確かレアを始めとした商会の暗部、ヴァーリの使徒がアニエスのことをそう呼んでいた。俺は“湖沼の黒髪男(シュワルツ・ゾンプ)”と呼ばれている。標的のコードネームみたいなものだろう。

 聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)のコイツが使っていると言うことは、商会独自のコードネームではないようだ。


「焦らないでくださいな。とにかくまずは、ご存じないようで安心しました。あなたまで知っているとなると、聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)の沽券に関わりますのでね」


 クロエはカップをソーサーの上に置き、鼻から息を吐き出した。


「馬鹿にしてんのか?」


 俺はクロエの言い方にいらつきだしてしまい、椅子の上で尻が前に滑り動いた。浅く腰掛けてるようになり、右手をテーブルに載せて、動いてしまう指先をカタカタとテーブルに当てた。


「とんでもない。本日お伺いしたのはその計画にご協力いただけないかと思いまして」


「お前らの言う協力ってのは、大体の場合で強制みたいなもんだろ? だが、ダメなら従わせる、とはいかない。司令部に突き出すか、俺自身が暴れるかだ。

 それをするとどうなるんだ? 何をするかは今はどうでもいい。やる気ないからな。した結果この世界はどうなるんだ? それ次第ってワケでもないが、とりあえず言ってみろ」


「帝政ルーアの復活ですね」


「そうか」と椅子から立ち上がった。財布からいくらかのエイン紙幣を少し多めに置き、皺で浮いたそれらを指先で押さえてクロエの傍まですり寄せ、テーブルに押しつけるように軽く叩いた。


「悪いが協力は出来ないな。聞きたいことは山ほどあるが、寝言はとりあえず司令部でゆっくり聞いて貰え。

 ここの代金は俺が持つ。これから司令部にお前のことをチクりに行く。憲兵が押しかけてくるまでは好きなものを頼んでくれて構わない。カリーブルストでも食っとけ。すぐ出てくるし旨いぞ。

 拘束しても邪険に扱うなとカルルさんには伝えとく。それから夕方に拘束されてるところに顔を出す。そのとき出してやるから帰れ。あと共和国にも伝えとく」


 上着を着て出て行こうとクロエの横を通りかかった。


「あらあら、お待ちくださいな。まだお話の途中ですよ」と上着の裾を掴んできた。

 振り返るとクロエは前を向いたまま、手だけはコートを掴んでいる。だが、膝の上に置かれている左手には杖が握られている。いつでも攻撃できると言いたいのだろう。


「最近は戦争のおかげでここまで入り込むのも容易ではないのですよ。せめて話を最後まで聞いていただかないと、手間が無駄になってしまいますわ」


 俺は何をされても、こいつには負けない自信がある。しかし、ここで暴れて大事になれば、俺は連盟政府の諜報部と密会していたことが明らかになる。

 それによって俺自身がどうなろうと構わないが共同体幹部に顔見知りが多い。アニエス、ベルカとストレルカ、その他人たちの迷惑になる。そして何より、また店内にある何かを破壊するのはマスターに申し訳ない。


「続けろ」と上着を思い切り動かし、掴んでいた右手を振り払った。そして、向かいの椅子に腰掛けた。


「お一つ如何です、マリトッツォ?」とクロエは小首をかしげて微笑み、一つ皿の上に残っていたマリトッツォを勧めてきた。


 いらついているときに持ち上げると、力が余って握りつぶしてしまいそうだ。

 クロエが寄せてきた皿から持ち上げて一口で放り込んだ。

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