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彼女が選んだもの 第八話

 今や裏通りも清浄化され、少しばかり暗く湿度が高いだけの普通の街角になっている。

 しかし、そのカフェのアイビーに覆われたたたずまいは相変わらずだ。雨に打たれたアイビーの葉は濡れて色を黒くし、雨粒の重さに頭を垂れている。

 その雨粒が流れ落ちると、濃い緑になった葉は大きく震え、やがて減衰して止まった。


 傘をたたみドアノブを握り店内に入ると、義眼のマスターはちらりと動く方の視線だけを寄越して相変わらずの声で「いらっしゃい」と言った。

 以前ベルカとストレルカが壊したテーブルと椅子は北公が保証してくれた。元通りになっている。

 店内にも清浄化の波は流れ込んでおり、一般のお客も所々に座り楽しげに談話している。雨の割りに客足が多い。

 ここのマスターの淹れてくれるコーヒーは、ただの密談場所にとどめておくには勿体ないほどに美味しいので評判が広まったのだろう。


 それを横目に窓際、以前レアと三人で話をしたことのある席へと座った。

 店内に入り席に着くと、マスターが注文を取りに来てくれた。


「ライ麦パンのチーズとハムのサンドウィッチ。コーヒーに麦芽乳を付けてください」と言うとマスターは「かしこまりました」と返してきた。

 メモを取り終わったマスターに「ここは日当たりが良い。暑くなるので、あちらへ移動されてはいかがですかな」と言われ、外からは見えにくい店内のやや奥まった位置へと案内された。

 店内なら何処でも密談し放題、と言う時代ではなくなったようだ。


 壁でほとんど見えない出入り口側を正面に座り、ブラックコーヒーを飲んで待っていた。

 しばらくそこでぼんやりしていると、メッセージを残したヤツが入り口から堂々と入ってくるのが通路に飾られている鏡に映った。

 その女性が店内を見回していると、近づいてきたマスターに微笑みかけて何かを言った後、横を通り抜けて真っ直ぐこちらへと向かって来た。

 鏡越しに目が合っていたが、目を逸らすと鏡から姿を消した。壁の間から再び顔を出すと俺を見て微笑んだ。


「やっぱりあんたか。敵陣のど真ん中で随分大っぴらに会うもんだな」


「クイーベルシーたちの自立により非合法なモノが一掃されたことでスラムも裏通りも解放された。ノルデンヴィズはどこもかつてないほどの希望の光に満ちているではありませんか。

 今や時代は諜報合戦の世ですわ。こそこそしてるとかえって怪しまれるので。

 諜報活動も闇に紛れる時代から人混みの中へと変わるのですよ」


「木を隠すなら森、ということか。そういえば、今使ってる偽名を俺は知らないな。とりあえず、いつも通り呼ばせてもらう。で、何のようだ、クロエ?」


 クロエは小首をかしげてにっこり笑うと対面の椅子に座った。

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