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彼女が選んだもの 第二話

 俺の仕事は、砲火の音がそう遠くないところで響いている前線の野戦病院に向かい、そこでは対処できなくなった兵士たちを移動魔法で回収しノルデンヴィズの病院へ送り届ける。

 もちろん、負傷してそこにいる兵士は戦闘員という枠には入れていない。

 俺はそれで終わりではなく、足がない、腕がない、顎や頬の骨がべっこりとなくなり、赤黒かったり、緑青だったりの包帯を丁寧に外しデブリードマンしてから治癒魔法をかけていく。


 自分には治癒魔法がある。それで救うことが出来るならと思い、必死になり、一人でも救えたことに抱きたくもない自信を抱くときもあった。


 だが、治癒魔法で治せるのは身体だけであり、同じ人間を殺すことへの良心の呵責に押しつぶされた者や砲火や魔術の爆煙でおかしくなった者の心は治療できなかった。


 そうしていくうちに、結局、自信は一時的なものだということに気がついた。

 全て治して見せようと意気込んでも、壊れた心は治せない。

 数も多く、次から次へと運ばれてくる彼ら一人一人に対して向ける思いやり、というのか動機が、治癒魔法に期待されているという自信からではなく多さ故に目の前にあることをただこなしていくだけになっていった。


 そして、いつしかもはや流れ作業のようにもなっていった。


 傷の大きさに比例して治癒魔法による自己再生促進の痛みに耐えかねて死んでしまう者、自己再生をするための体力を途中で失ってしまう者、治癒が完了して痛みから解放されるや否や穏やかに息を引き取ってしまう者、輸送中の束の間の安堵で息を引き取る者、生きることを諦めてしまう者。


 もちろん亡くなってしまう者たちばかりではなく様々な者たちをひたすら治療し、腕や足がなくなることに絶望や憤慨、錯乱して暴れる者には自らの左腕を見せつけ、押さえ付け、黙らせた。


 偉そうに見せつけて黙らせてはいたものの、俺の傷は戦争で受けたものではないし、アスプルンド博士に気に入られて最高級のものを与えられたのは幸運なだけだ。

 諦めるな、生きろ、逃げてもいいがまず生きろ、と怒鳴るそのたびに虚無に飲まれそうにもなった。


 マジネリンプロテーゼでどうにかなる者たちはまだ幸せかもしれない。それでもどうにも出来なくなった者たちはこれからどうなるのだろうか。

 俺がするのは目に見えている外傷の治療だけであり、その後の足取りは分からない。

 もしかしたら、同じ者を治療していたかもしれない。だが、時間が経つにつれて全員の顔つきは黒く深く泥の沼のように変わっていくので、同じ人だと言うことに気がつかないのだ。


 何も分からない中で一つだけはっきりしていることはある。誰も幸せにはなれないということだ。


 マジネリンプロテーゼでどうにかなる兵士たちは自らの義務にさえ嫌悪を抱こうとも、再び戦地へ赴く。戦地に向かうことを拒否することは出来ないのだ。

 無い腕には細かく動く義手、無い足には以前よりも速く走れる義足、抉れた顔には笑うこともなく恐怖も漏らさないアルカイックスマイルの精巧なマスク、二度と光を見ることのない義眼。

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