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レッドヘックス・ジーシャス計画 最終話

 その単語で私は全てを理解した。

 シバサキが無くした書類は、今目の前に曝されている三ページ目だけではない。

 計画の名前は最初のページだけに書かれている。ユリナは間違いなく全てのページを手に入れている。

 私が把握している紛失は三ページ目だけだったはず。


 まさか、あの男、無くしたことを誤魔化す為に他もまるごと捨てたのかしら!?


 今ここで魔石を奥歯でかみ砕いて、自ら命を絶ってしまいたい。しかし、その計画の全貌をそれも共和国のエルフに知られた以上、その後始末をしなければいけない。


「見つけたのはこれ一枚じゃなくて、色々読んだけどさ。何かめっちゃ危なっかしいコトしようとしてんじゃん」


 ユリナさんは掌を返し、自分の顔の前にその紙をぶら下げた。そして、口をウサギのように開け、顎を突き出して読むような仕草を見せた。


「こんな名前の計画、あからさま過ぎんだろ。

“カエサルのものはカエサルに”。こっちの世界でも皇帝を意味する単語が全て“カエサル”にちなむのは不思議だよなぁ。

 わざわざエルフの言葉で『皇帝(ジーシャス)』っていれんのは馬鹿の証拠か?」


「読んだなら知っているはず。もう止まりませんよ。今さら中止しろというのですか。

 それともこの情報を黙っておいてやるからゲンズブール先史遺構調査財団の真実を明かすなとでも言うのですか?」


「いんや、違う」と言うと同時に書類を手から放すと、口の中に手を突っ込んできた。

 突然喉の奥まで異物を放り込まれて起きた嘔吐反射に、胃や肺が底から突き上げられるような感覚に襲われた。

 気持ち悪さにもがいていると、手はゆっくりと引かれた。粘性の高い唾液が纏わり付き、唇や舌と糸を引いている。

 人差し指と中指の間には赤く小さな丸い石が挟まれ、部屋の薄明かりを赤く透き通らせていた。

 奥歯の後ろにあった自殺用魔石を引きずり出されたのだ。


「是非ともやってくれたまえ。この計画には大いに賛同するぜ?」


 ユリナは魔石を人差し指と中指で持ち上げ、それを見せつけるように顔の前で揺らした。


 強く摘まみ潰すようにしながら「何なら協力もしてやるよ」と言った。


 すぐにそれはぺきりと音を立てて赤く小さく光り、灰色の粉になり風の無い部屋の中で崩れ消えていった。


「なぜ!? 理解出来ない! あなた達は共和制に移行して皇帝を排除したはず。それなのにどうして?」


「黙れ、怒鳴ンな。ゲロ混じりのくっせー唾が飛び散るだろうが。ハイかイエスで答えろ。私の協力は必要か?」


 傲慢な尋ね方だ。肯定以外の選択肢は存在しない。だが、それが不愉快には感じないのだ。

 共和国の力は絶大。私は連盟政府の人間だが、悔しいがそれは認めざるを得ない。

 私たちの計画がうまくいけば、マルタンは再び連盟政府の土地へと返る。あそこは戦略的に超重要。長い目で見れば、マルタンの復帰はユニオンの制圧にもつながる。

 共和国と足並みを揃えて作戦を行ったことは例え公表されなくとも、お互いに良い印象を与えられる。

 私の想定している未来よりも、よりよい目覚めを促せるかもしれない。


「いいでしょう。答えは“イエス”」


 ユリナは「仕方ねぇなぁ。じゃ、菓子ばっか食ってるあのオペレーターを……」と言いかけると動きを止めて視線を上げた。

 顔を近づけてくると「今何つった?」と尋ねてきたので「イエス。ハイの方がいいかしら?」ともう一度答えた。


「驚いたぜ! こりゃ意外に返事が早い! お前、やっぱ馬鹿じゃねーだろ! シバクソの部下にはもったいねぇなぁ、ハッハァ!」と大声を上げ手を叩いた。


「じゃあ、まずはお話でもしようか。“紅の魔(レッドヘックス)女皇帝(・ジーシャス)計画”のな」


 そういうとユリナは私の肩を叩き、私の拘束を解いて部屋の外へと導いた――。

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