レッドヘックス・ジーシャス計画 第六話
「黄金捜索の途中から様子がおかしいとは思っていました。
あなた方の道具を盗み出そうとしたとき、技術のほとんどが魔法ではなく科学に重きが置かれたものばかりだったのはそういうことですか」
「不愉快なことを思い出させんなよ。また七割八分殺しになりてぇか? 今日はイズミがいないぞ。擦りむいても赤チン塗って貰えねぇぞ」
私はエルフに捕まったのだ。分離独立を表明した人間たち以下の存在であるエルフに私はむざむざ捕らえられてしまったのだ。ヒトとしての尊厳を守る為にいざとなれば。
口を大きく開け、舌を右前方に出して奥歯の後ろの方にある赤い小さな魔石を見せつけた。
すると、ユリナは両眉を上げて「覚悟はバッチリと言うことだな。感心、感心。だが、死なれても困るなぁ。面識のない別のヤツを攫って同じコトするなんざ、仕事が増えて面倒だ」と口角を上げた。
「困ると言うことは何かさせる気ですね。ですが、正体を明かしたと言うことはゲンズブール先史遺構調査財団は用済みと言うことですか」
「そうだな。もうあんま使いモンにならないガワだな。でも、財団の名義はいくつもあるんだ。言っちゃ悪ぃが取っ替えは効く。だが、秘密は守って貰うぜ」
「私が知ってしまった以上、もう遅いですよ。報告させていただきます。あなたの立場も見た目も、何もかも」
ユリナは「和平交渉が始まってだいぶ経つのに共和国長官である私の顔が未だに割れていない時点でお前らの情報伝達速度の高が知れてる。好きにしろ」といいながら何度か頷き、ボードに再び視線を落とした。
そして、「ところで、この紙は何だ?」と言いながら一枚の紙を人差し指と親指で摘まみ上げて私の顔に押しつけるように見せつけてきた。
それは、黄金捜索中にシバサキがゴミ屋敷で無くしたレッドヘックス・ジーシャス計画が記載されている書類の一部だったのだ。
「クライナ・シーニャトチカの道っぱたにおっこってたぜ?」
シバサキ、あのクソ野郎。暴言は口には出さず、頭の中いっぱいに響かせた。
無くした書類のことはどうでも良いような反応を見せていたが、まさかこういう事態を招くとは。
噛みしめた奥歯が咬筋を抑えつける音が頭に響く。うっかり魔石を噛み潰したらどうするのだ。
だが、目の前でちらつかされている紙は三ページ目であり、そこにはレッドヘックス・ジーシャス計画の名前は書かれておらず、代わりに計画番号で表されている。
本文に書かれているのは対象人物の概要が書いてあるだけで、大した情報は書かれていない。
「知りませんね。私たちの組織のマークが丁寧に描かれているようですが、偽物でしょう」
その一ページだけでは何の情報も得られない。
他に何が書かれているかを聞かれたとしても、個人情報がまとめられている書類だと言えばいい。
私がしらを切ってしまえばそれ以上の詮索しようがない。
後始末を放棄することになるが、いざとなれば奥歯のあれだ。これ以上の流出は防げる。
「偽物かー。あっそ、偽物ね。ま、お前ら全部偽物みたいなもんだしな。はい、はい。ところでさ、このさ、」
しかし、次の瞬間、この女性は予想だにしない言葉を放ったのだ。
「“レッドヘックス・ジーシャス計画”って何だ?」




