レッドヘックス・ジーシャス計画 第五話
「あ、いや、案外嘘ではないかもしれないな。
ステロバティスてあいつだろ? それには同感かもしれないな。
だが、ちげぇだろ。さしあたり調査するつもりなんだろ。私らの正体についてか?」
「黄金探しの時から怪し過ぎでしたからね。そういう不穏分子の捜査も私たちの仕事の一部ですので。
本来はあの時点ですぐに調査に乗り出さなければいけないはずでしたが、あのときは足枷があったのでろくに調べられませんでした。
ですが、今は休暇で自由なので好きに出来ます」
「さっすが、連盟政府のお犬様。お休み返上で尽くすワン!」と言った後、手で犬の形を作りワンワンアオーンと犬の鳴き真似をしながら動かした。
揺れる薄灯りで出来た影の中で輪郭のぼやけた犬が鳴いている。
「では目的も明らかになったところでお伺い致しますが、あなた方、先史遺構調査財団ではないのですか?」とユリナをにらみ返して尋ねた。どうせまともな回答は得られないだろう。
「ああ、そうだな。先史遺構調査財団は連盟政府の歴史を辿るお仕事をしている由緒正しき財団。
お前らの書き換えたクソどうでもいいお話しをクソ真面目に調べてる風な財団だよ。こっちではな」
こっちでは、とはどういうことだ。にわかに嫌な予感が頭の中を過り始めた。
「連盟政府において歴史を辿るには政府の許可が必要。黄金捜索の以降にあなた方を調べましたが、許可を出された記録は存在しない。違法組織以外ならば、何者なのですか?」
ユリナは笑った。
「偽名が何を言ってんだよ。コードネームのクロエさん」
そう言うと脇に抱えていたボードを開いて、そこに書かれている内容を読み上げ始めた。
「連盟政府の諜報部、聖なる虹の橋所属。女性。年齢、二十四歳。お、意外と若いな。
サント・プラントン出身。実家は代々湯灌師。民間から政府関係者、影の世界まで、様々な亡骸を扱い手広く事業を展開している。
貴族ではないが裕福な家庭に育つ。……いわゆる、素封家ってヤツか?
しかし、仕事柄差別を受けることが多い。お前は四人兄妹の三女で、お前以外は優秀な魔法使い。
兄は家業を継ぎ、姉と妹は偽名を使い、教皇領の領主に仕え国政に従事。
かたやお前は学校での成績は平均的で錬金術師。代々、聖なる虹の橋に従事する者が兄妹の中から一人必ずいて、当代での役割はお前が担ったというワケか。
しかし、おかしいな。ここまで本名が記載されてない。お、あったあった。本名……おぁ!?」
ユリナは一度読むのを止めると、目を見開いて嬉しそうに書類と私の顔を交互に見た。
「こりゃ驚いたな! マジか! はっは、お前もなのか。本名、クロカ……」
「お黙りなさい! 私の素性を調べて何になるのですか!?」
「そうだなぁ。何にもならねぇな。
連盟政府の犬の中でもビンビコの筋金入りだな。どんだけ調べても由緒正しき従順なワンちゃんであることが具体的になるだけだったわ。
あんたら一族はあすこにどんだけ恩があるんだかな」
「あなたには関係ないでしょう」
「そうだな。叩けば使えそうな埃が出るかと思って調べても無駄だった。使いモンにならん」
そう言うと顔を斜め上に向けて両掌を天に向けた。
「おっと、そうだな。私たちのことも教えといてやろう」
目の前に立ちはだかるとむき出しの魔力照明を遮るようになった。逆光で黒い影の中で白い歯だけを見せて笑うと、
「私はルーア共和国軍部省長官、ユリナ・イクルミ・ギンスブルグだ」
と覗き込むように顔を近づけてきた。
「お前らの大好きなエルフの国から来た魔王軍さ。さしずめ私は魔王軍大元帥だな」




