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レッドヘックス・ジーシャス計画 第四話

「おい、そろそろ起きろや」


 そう聞こえると同時に顔に水をかけられた。

 いきなり溺れるほどに水が鼻や口から入り込み、空気を求めて大きく息を吸い込んだ。空気に混じって僅かに水が肺に入り苦しくなり、何度も咳き込んだ。

 そうしてやっと自分が失神させられ、そして意識を取り戻したことに気がついた。


 顔に付いた水滴が不快で拭おうと手を動かそうとしたが、何かに引っかかり前に出すことは叶わなかった。両手は後ろで縛られているようだ。

 一度強く目をつぶり、そして顔を左右に揺らして水滴を払ってからゆっくりと目を開けると、


「よぉ、クロちゃん。元気してたか?」


 と女性の顔が目の前に迫ってきていた。

 小首をかしげて私を覗き込むその女性はユリナだ。私を何度も死の淵に追いやったユリナ・ゲインズブール。魔法より先に手が出る最悪の女。

 集合場所はサント・プラントンだと思い込み、すっかり油断していた私はこうもあっさり捕まってしまったのだ。

 しかし、少なくとも街で友人と会うような和やかな雰囲気で遭遇するとは思っておらず、何かしらの暴力的な手段でもって秘密裡に面会場所まで運ばれるとは想定していたので、些か冷静でいることはできた。


「随分手荒いお話し合いですこと」


 ゲホゲホと咳き込み、二分もすると落ち着きを取り戻せた。息を大きく吸い込み、呼吸を整えて一度自らの音を止めた。


 窓はなし。壁は木造。だが、隙間がない。空気の流れも淀んでいて肌が湿る。音の反響も悪い。土のような泥のような、埃っぽい臭いも充満している。

 外と違って気圧も鼓膜を押さえ込むようだ。ここは地下のようだ。


「地下三階ぐらいだな。逃げるにゃドアが一個だけ。そこしかない」と私が様子を探っていることを悟ったユリナがそう言った。


「そのようですね。ですが、逃げはしませんよ。

 本部にも戻らなければ休暇中だと伝えてあります。仮に私がしばらく戻らなくても怪しまれませんよ。良かったですね」


 ユリナは「ほー」と口を尖らせた。


「のこのこ捕まったってコトは何か目的があるのか? こんな捕まえ方しといて、私らはあんたをここにだらだら留め置くつもりはないんだが」


「ステロバティス殿の顔を見なくて済むのですよ」


 口角を上げて皮肉な顔を見せつけてそう言うとユリナは手を叩いて大声で笑い出した。


 しばらく笑い続けた後、「嘘つけ」と言いながらユリナは前屈みから姿勢を戻し、私の濡れた前髪を掴み上げて顔を無理矢理自分の方へと向かせた。

 だが、そのまま一度動きが止まると片眉を上げて視線を左に泳がせた。

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