レッドヘックス・ジーシャス計画 第三話
返ってきたことにオペレーターの子が反応し、ブースから顔を覗かせて怪訝な顔で「お友達ですかぁ?」と尋ねてきた。だが、私は何も言わずに彼女の目を見返した。
それで何かを察したのか、視線を逸らすと「ここの回線は特段秘匿というわけではありませんが、あんまり外部の人には教えないでくださいね」と付け加えた。
私は荷物をデスクに置き、簡単に埃を払った後、再び立ち上がり出口を目指した。
「少し外出してくるわ。夕方までに帰ってこなかったら今日は直帰したと思ってちょうだい。明日も顔を出さなかったらしばらく休暇を取ったと支柱長に伝えてちょうだい」
オペレーターに通り過ぎ際にそう言うと、えぇ、と不満の声を漏らした。私が立ち止まりそちらを振り向くと、
「あのぉ、夕方頃に支柱司長がお見えになるんですよ。全員揃っていないとまた不機嫌になるんですどぉ……」
と困った顔を見せてきた。なるほど、オフィスに人が少ないわけだ。
「知らないわよ。こっちは仕事中よ。
大体、これまでもステロバティスが来たときに全員揃ったことなんてあったかしら。
領収書の束を持って帰ってくるだけのステロバティスと違ってみんな忙しいの。お前が合わせろと伝えておいてちょうだい。
どうせあなたも終業前に帰るんでしょ。置き手紙で良いからよろしく」
オペレーターブースの隅っこに彼女のバックが置かれている。ちゃっかり逃げる準備はしているようだ。
オペレーターの子は白い歯をむき出しにして眉を寄せた。
嫌なのは分かるが、そうも言っていられない。
私は、ここの連絡先も、私がここに居ることさえもゲインズブール財団の誰かに教えた記憶は無い。
おそらく、何か大きな力、たかだか連盟政府の先史遺構調査財団如きでは済まされないような何かが私を呼んでいるのだ。
何もしない出来ない仕事を持ってくる上司ならまだしも、仕事を増やすだけの上司なんぞよりよっぽど重要だ。
渋るオペレーターの子に構わずにオフィスを出て、サント・プラントンに向かうべく地上に上がり民家に装った施設のドアを開けて外に出た。
首都までの地下トンネルを使えば速いのだが、出る場所が問題なのだ。
出口は中心街にある魔石販売店『レーグンボーグン魔石商店』のスタッフルームに出る。
そこの従業員は全て聖なる虹の橋の者で、出入する者の一挙手一投足全てが監視されている。
これから謎の組織に密会をするというのにそれは目立ちすぎるのだ。
路地裏を出て通りに出ると、眩しくて掌を額にかざして影を作った。
空を見上げると青い空が広がっている。陽射しは見上げるほどに高く、涼しさはあるが動けば汗ばみそうな陽気だ。
地面も乾いており、サント・プラントン行きの馬車は今日は走っているはずだ。
通りを抜け定期馬車の通る街道沿いまで歩こうとしたそのときだ。突然視界が真っ暗になった。
声を出そうとして息を吸い込んだが、顔に被せられた粗い何かに鼻と口を塞がれてしまった。
どうやら麻の袋を被せられたようだ。息苦しさから逃げようと身体を動かそうとしたら、首筋に衝撃が走った。
オペレーターの名前はヒルデスハイマーです。




