幕間の対話 第四話
「私たちがさせようとしていることと別に、自分自身で見いだした目的あってのチート能力よ。
チート貰ったら絶対に無双しないといけないの? そんなんしないと満足できないの? 無双する以外にすることないの?
チートなんか手にしたから、満足する閾値が上がってんのよ。異世界を楽しみたかったらチートなんかない方がいいんじゃないの?
自分で願いを叶えようとするからこそ、面白いんじゃないの?
目的の為に悩んで努力して混乱して絶望して挫折して立ち向かってからやっと目的を果たすから良いんでしょ。
あんたもそうじゃない。和平っていう目的は人間の願いという形で最初から用意されていたのに、まだ叶えられていない。
あんたに与えられたのはチートがあるって言う示唆だけ。目的すら自分で探させた。
あの子もあんたの和平の願いなんて叶えようと思えば簡単なはず。やり方は知らないけど」
「俺たちを見て楽しんでんのか?」
「そうよ。願いを叶えてくれって人間たちに呼び出されても、なんで神はヒトに加護と暴力しか与えないのか。
それは見てて楽しいからよ。ゲームのチートコマンドと一緒よ。
こうなったらキャラクターはどういう反応を見せるか。どういう反応を見せて目的を自ら達成するか。
あんたたちがゲームの世界にしまくってたことと同じ」
「そんなの楽しいのかよ。すぐ飽きそうだ」
「そうね。いずれ飽きそうね。もしかしたらもう飽き始めてるのかも。
一時的な万能感に浸るって言う目的は元々万能である私たちにはないわね。くだらない一通りの反応しか見せない人間に飽きてるのよ。
だから、無駄に力をいっぱいあげたり、全部願いを叶えてあげたりしないのよ。
もう何にもすることないヤツがスローライフとかいってだらだら老いさらばえてくだけの退廃と退屈な姿なんて、見てて一体何が楽しいのかしら?
万能感に飽きるのは私たちだけじゃないハズよ。力を与えられた本人がその力を持て余した挙げ句、悪の道に走るじゃない。
そうさせないために願いを叶えなかったとしても、神は残酷だとか言ってひとのせいにするわよね。
前にも言ったけど、人間て被害者意識だけは神様級よねー。
ヒトとヒトとの繋がり、愛はその一部だから私も言えるけど、私がそれまで与えて満足したヒトはいないわ。
築き上げてきたものではなくてある日突然与えられたヒトとの絆。
相手をどれほど裏切ろうとも傷つけようとも、絶え間なく信頼されたとしても、元を辿れば虚無でしかないとあんたも思うはず。
ヒトは贅沢な生き物で、手元にあったとしてもそれを獲た過程が虚無であればあるほどにそれに飢えるの。
心が満たされるほどの尊敬、信頼、友情。それらは全て愛の形の一つ。そして、簡単に手に入ってはいけない。時間をかけて手にしなければヒトは満足しない。
人間にとって愛はその時間の積み重ねだから。
例えば、チート能力を貰ったヒトがいきなり村に現れて、たった一日でその村の窮状を救ったとするわね。
すると、若い娘たちが「ステキ抱いて!」ってM字開脚しながら群がってきたり、村長だか長老だかが「英雄じゃ! 英雄じゃあ! 英雄様を引き留めるのじゃ!」とかいって娘に夜這いかけさせて、その娘たちもそれに満更ではない、というかむしろ積極的みたいなことは、少なくともこの世界ではならないのよ。
私の力を持ってすればそう言う状況にするのは造作も無いこと。でも、しない。なぜなら愛の女神だから。
実際は、何かすごい人が来て何かしてくれた、カネや食べ物を礼に渡したら去っていった、ぐらいしか村のヒトは思わない。
記憶に残りたければ、助けてやったんだから娘と土地の権利含めた財産全て差し出せ、くらいしないとね」
「そこまで冷たいか?」
「冷たいわね。世界において物事に最も効果的な決着を付けたのはカネと武力だけ」
愛のないことをいう女神だ。
「ま、要するに、全ては神々の戯れ。目的を直接果たすのではなく、それを果たす為のチートを与えるだけってこと。
話がだいぶ逸れたわね。シバサキはあんたの力が出来ることを目的にしてるの。
でも、正確に言えばあんたの力がしてることとは違うのよ。
あんたは乱雑さを減少させてるけど、彼の場合は違うわね。人工多能性幹細胞とタイムマシンの違いみたいなものかしら。
どっちが現実的かと言えば科学的なシバサキの方だけど、やってのけたのは魔術的なあんたの方だったのよ」
「……よく分からないな。若返って何するつもりなんだ?」




