幕間の対話 第二話
「私はね、愛の女神だから。愛の女神だから何をしても許されるの。全ての行動は『愛、故に』だからね。
物を盗もうが、人を殺そうが、世界を滅ぼそうが、愛が行動原理なら全て許すのよ。
あんただって『愛、故に』セシリア女王を誘拐したじゃない。『愛、故に』時間巻き戻して不変のハズの結果を根底から否定しようとしたじゃない」
「まさに愛の漢字の真ん中には心があるだな。真心なんかじゃなくて、自己中心的」
「そうね。愛は自己中心的なもの。確かに自己の中心にあったとしても、それは絶対に伝わらない。
なぜならヒトは嘘をつくから。嘘は泥棒の始まりといいながら、嘘も方便と嘘をつくから。
愛は、自分に愛はあると確信して、相手もそうであると信じるもの。自分の中になければ相手に求めすらしない。自分の中に無い相手から向けられれば邪魔にすら感じて相手を強烈に否定する。
そして、嘘をつくヒトは自らにさえも嘘をつくこともある。相手を愛していると。
何処まで言っても極めて自分本位なもの。ダメかしら?
その自己中心的な感情に基づいてあなたは事象を否定した。致命傷致命的な状態で、そのままなら回避不可能だった死を回避したのよ。
人間の魂はね、抗えない乱雑さの増大の中にあるの。もしあなたが事象を否定せずにその過程が進んでいればどういう結果になったかしら?」
「俺にとってはあの瞬間があの時点での結果で生きていると判断して、そして、今は生きていることも俺がしたことの結果だ。悪いが俺は二人が死んだという結果は見ていない。
大怪我をしたとか、病気で死にかけていたと言うあの時点での結果を否定しただけだ。あんたが絶対不変だと言い張る死を俺は否定していない」
チッ、と女神は聞かせるように舌打ちをした。女神という立場の女性たちは基本的にみんな下品なのだろうか。ことあるごとにちっち、ちっちと舌打ちをするのだ。
腰に手を当てると前屈みになり、「いちいち言ったことにねちねち突っかかってこないでくれる? ムカつくんだけど」と鼻筋を寄せて睨みつけてきた。
何を言いやがる。クソ女神。いきなり呼び出しやがって。
この間まで面倒見てくれてた女神のほうが、頭ごなしに怒鳴るし無茶振りはするが、多少マシだったぞ。
シバサキの面倒を見てる女神なんてまともじゃないだろう。
「いきなり呼び出したの誰だよ」
ムカつくのこっちの台詞だと俺はベンチに浅く座ってふんぞり返り、足を開いた。
「あんたのやったことはこれからシバサキのやろうとしてることと同じなの。
なんでシバサキにはあれだけの力を上げたのに未だに出来ないのかしらー。だから嫌なのよ。
しかも、こっちはこっちで使わないとか意地張ってるしー」
「何の話だよ。一人で盛り上がるな」
「あんた、態度悪いわねー。前なんかおどおどして敬語だったくせに」
お陰様で、とも何も言わずに、女神を見つめて肩と両眉を上げた。
「シバサキのしようとしてる実験の話とかしてあげようかしら? あの子ね、黄金使ってすんごい魔法作ろうとしているのよ」
「へぁーそうですか。あんまり興味ないです。結局黄金なんかどこにも無かったんだし、どうせ迷惑なことだろうし。そういえば、今日何の為に呼んだんですか?」
「聞きなさいよ! あんた、自分の話ばっかり! 何なの、さっきから!」
「じゃあ、何ですか? ご高説賜りとうございまする」
「最初からそうしなさいよ。いや、じゃあって何なの? じゃあって」とブツブツ言った。




